中山 「東京バンドワゴン」を読んでいると、節々に作者の優しさに見守られている感じがします。でもちょっとトゲもあって、そこがまた面白いです。

小路 このシリーズは、小さい頃からずっと見てきたテレビのホームドラマを小説で書こうとした時に、自然に出てきた作品です。下町の大家族で、頑固なおじいちゃんがいて、元気な子供がいて……。典型的なホームドラマですね。

中山 小路さん自身の理想もありますか。

小路 まちがいなくあるでしょうね。僕自身も家族持ちですけれども、ごく普通の核家族です。和気あいあいとしているわけでもなく(笑)。

中山 和気あいあいとしていない(笑)。

小路 息子二人で、長男はデザイン学部の大学生ですが、自分の部屋にこもってパソコンでデザインの課題をやっているし、小学生の次男はずっとプレステをしている(笑)。妻はテレビドラマを見ていて、そして僕はずっと書いている(笑)。ばらばらです(笑)。

中山 ご自身が子供の頃はどんなお家だったんですか。

小路 父は製紙工場に勤めているブルーカラーの労働者で、母は専業主婦。テレビの横に木彫りの熊がある(笑)、そんなごく普通の家庭で面白くとも何ともない。中学校から音楽をはじめて、そのうちロックを聴きはじめると、やっぱりロックといえば「反抗」だから(笑)、「なんだこのセンスのない家は! 早くこの家を出て俺のセンスを求めるんだ」って。ところがうちの長男は全然出ていこうとしない。

中山 居心地がいいんですね、きっと。

小路 そうかもしれないです。親父はこんなだから(笑)、うるさく言われるわけでもないし。

中山 私は最近家を出て引っ越したばかりなんですが、さみしくって。最近寒かったせいか、よけいさみしさがつのって、間に合わせに付けた裸電球の灯りの下で泣いていました(笑)。

小路 うりさんはまだお若いですが、先ほども話に出たようにノスタルジックな曲のつくり方をしていますよね。うりさんの中でそれがどんなふうに育てられてきたのか、気になります。

中山 私の持ち味といってもらう事が多いですが、本当に意識していなくて、自然とああいった言葉が出てきたり、メロディが出てくるので、それは環境のおかげなのかなとも思いますね。

小路 それはつまり「家族」ってことですよね。記憶の中に家族と過ごした時間が必ずあって、それは年をとればとるほど出てくるものだと思います。

中山 そうかもしれないですね。私は埼玉の団地育ちなんですが、近所づきあいが濃密で、同世代の子供も多かったので、お祭りや川遊びや、いろんなことを断片的にだけれども、映像ではっきりと憶えていて、それが私の曲調にも出てきていると思います。引っ越した先は日本一商店街が多い場所で、一本商店街を抜けたら、また別の商店街がはじまって、スーパーも明らかにお年寄りが多い。そんなまったく若者が好まなそうな場所を(笑)、自然と選んでいるので、本当に懐かしいものが好きなんだと思いました。

小路 僕の作品も「懐かしい」とか「ノスタルジーを感じる」と言ってもらうんですが、書こうと思って書いているのではなくて、自然と出てきちゃった。自分の中にあるものを書いたら、ノスタルジックなものになったんです。

中山 天然ノスタルジー。

小路 おお! おたがいに天然ノスタルジーということで、これからもよろしくお願いします(笑)。

「青春と読書」5月号に掲載された対談を転載しました。