あらすじ 東亰バンドワゴンの店主・勘一の4人のひ孫たちは、元気に成長している。最年長の花陽は中3の受験生。「医者になりたい」という夢を抱き、勉強に励んでいる。
祖父・我南人の影響か、音楽好きの研人は中学1年生に。図書委員になったり、ギターの練習に打ち込んだり、充実した新生活をスタートさせた。同じ日に生まれたかんなと鈴花はもうすぐ2歳。おしゃべりも上手になり、家族中を和ませる天使のような存在。
そんな中、葉山に住む勘一の妹・淑子さんの体調が思わしくない。
家族皆、そのことを気がかりに思い、その一方では家の内でも外でも、日々大小の事件が起こっては落着し……。

 シリーズ六作目、『オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ 東京バンドワゴン』で、六年間堀田家の物語を書いてきたことになります。応援してくれている書店員の皆さん、そして読者の方々のお蔭でここまで続けてこられたこと、本当に感謝しています。ありがとうございます。できればこのまま七年目、そして十年目といつまでも書き続けていきたいので、これからもよろしくお願いします。
 いつまでも、と言いましたが、何せ登場人物たちは年を取っていきます。今回で勘一は八十二歳になりました。
 このシリーズ、正確には一作で一年が過ぎるわけではなく、春夏秋冬を続けて追っています。つまり前作の終章の季節から次作が始まっているのです。
 番外編の四作目『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』が出た年の一年は本編では〈なかったこと〉になってますから、初登場時七十九歳だった勘一は今回で八十二歳になりました。そうして季節の並びは、一作目〈春夏秋冬〉・二作目〈冬春夏秋〉・三作目〈秋冬春夏〉・五作目〈夏秋冬春〉と巡ってきて、今回の六作目で、一作目と同じ〈春夏秋冬〉の並びでお届けすることになりました。
 なので、今回はところどころに一作目と同じような描写や話題を盛り込んでいます。ここですべて説明してしまうのは興を削ぎますから言いませんが、一作目がお手元にありましたら読まれた後に確認してみるのもおもしろいかもしれません。
 本編のタイトルはビートルズの曲を使うと決めています。今回は彼らの曲の中でもとびきり楽しい雰囲気を漂わせる〈オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ〉を選びました。せっかく季節が一回りして一作目と同じ春夏秋冬になったのだから、賑やかな雰囲気にしたかったのです。それと同時に、この歌の歌詞にある〈Life goes on〉というものをテーマにしようと決めたからです。
〈Life goes on〉。日本語にするといろいろ解釈はできると思いますが、〈人生は続く〉、あるいは前後の文脈を考えれば〈それでも、人生は続く〉となるでしょうか。
 今回、作者としてひとつ決断をしました。この物語は家族がお茶の間で愉しむための〈ホームドラマ〉ですから、できるだけ楽しい時間を描きたいと思って書いています。けれども、人生には出逢いもあれば別れもあります。前作ではお目出度い〈門出の別れ〉も描きましたが、人の世には〈今生の別れ〉もあるのです。
 それを描かなければならないと決めたのです。一作毎に年を取っていく堀田家の物語。さらには老人が多い故、そのドラマも含めて今後は展開しなければならない。そう決めて、今作では登場人物の一人に今生の別れを告げました。さよならを言ったのは誰かは、本編を読んでいただければと思います。
 とはいえ、湿っぽい話ばかりではありません。それは勘一が最も嫌うものですから、いつものようにいろいろな〈些事諸問題〉が堀田家には舞い込み、勘一の怒鳴り声が響きます。我南人は相変わらず「LOVEだねぇ」と笑い、賑やかに騒がしく、皆が元気で過ごしていますのでご安心ください。
 正確に言えば、堀田家の今の時間は読者のリアルタイムではないはずです。番外編の一年がなかったことになってますので、少なくとも一年前の時間を堀田家は生きているはずなんですが、その辺はまぁいい加減な性格の作者なので適当にやってます。
 ホームドラマを目指して書き始めたこのシリーズですから、流行りものの話題は避けて通れません。これからも番外編を挟んで続けるつもりなので、本来数年前の時間を生きているはずなのに今の話題を喋るなど、そこここでズレは生じていきますけど、その辺は寛容な気持ちで見守ってくださると嬉しいです。
 最後に、この項を書いている今まさに、日本は未曾有の災害に見舞われています(二○一一年三月十四日現在)。多くの人命が奪われ、たくさんの人が被災者として苦しんでいます。亡くなられた方へのご冥福と、被災者の皆さんが一刻も早く日常に戻れることをお祈りします。
 小説家は書くことしかできません。せめてこの堀田家の物語で、皆さんが少しでも楽しんでくれることを願います。