小路 「東京バンドワゴン」シリーズの第一作を書いた時は、うりさんはまだデビュー前で、ほかの方の曲をテーマソングにして聴きながら書いていたんですが、シリーズ化が決まって、二作目のテーマソングをどうしようかと思っていた時に、たまたまiTunesでうりさんの「ノスタルジア」という曲を聴いてこれはすごいぞ、と。そんなわけで二作目の『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』は、ずっと「ノスタルジア」を聴きながら書きました。もしかしたらご本人よりたくさん聴いているかもしれない(笑)。

中山 うれしいです、素直に。

小路 さっきiTunesを確認したら四二七回リピートしていました。これからもシリーズは続いていくので、そのうち千回超えると思います。うりさんは、今は歌ってらっしゃいますが、昔は吹奏楽でトランペットを吹いておられたんですよね。

中山 はい。昔は歌うことはあんまり得意じゃないと思っていて、楽器のほうが自分の表現方法として向いているな、と。

小路 僕は昔、ずっとミュージシャンになりたくて、でもなれなかったんです。

中山 パートは何を?

小路 ギターボーカルです。

中山 ほー!

小路 でも全然才能なくて。音痴なんです(笑)。

中山 どんなジャンルですか。

小路 僕らの世代なので、根っこはやっぱりフォークソングですね。拓郎や陽水から入って、それから今は死語になったニューミュージックへ。僕らのバンドは女性がメインボーカルだったんで、ユーミン系統の音楽をやっていたんです。僕がソングライティングもしていたんですが、歌詞つくって、曲つくって、っていうのがすごく好きだったんです。

中山 やはりものをつくるのがお好きなんですね。

小路 うりさんの曲はジンタとかジプシースウィングの系統が多いですが、それはアコーディオンを手にしたということが大きいですか。

中山 たぶんそうかもしれません。でも、最初はノリで買ってしまったようなところがあったんです。だからアコーディオンの歴史などもまったく知らなかったんですが、本当にいろんな音楽にこの楽器が使われていることを知って、それからジプシースウィングにもたどりつきましたね。「ノスタルジア」に関しては、本当に等身大の私に近くて、素直に何にも影響されないで自分の中から出てきたものが、ああいうかたちになった、という感じです。

小路 小さい頃から音楽はよく聴いておられた?

中山 自分ではレコードやCDをコレクションしたりはしないんですが、家で父や兄が歌謡曲やジャズやソウル、なんでも聴いていたんです。だから聴こえてくるものの中で、気に入ったものを自然に覚えているのかもしれません。「ノスタルジア」はまったく苦戦せずにすっと出てきたメロディで、その流れにしたがって自然に歌詞もノスタルジックになりましたね。

小路 いいなあ。そんなふうにメロディが出てこないもんなあ(笑)。

中山 でも物語をつくるってすごいことですよね。頭から湯気が出ちゃいませんか。

小路 歌詞を書くのと根っこは同じなんじゃないかな。僕の場合はミュージシャンになりたくてずっとソングライティングをしてきて、小説を書くこともその延長線上にあります。例えばラブソングを書く時だったら、男と女の姿が頭に浮かんでくるだろうし、彼らが何を考えているんだろうかということを書いていけば、それがそのままドラマになる。

中山 何かを書こうと思って書くんですか? それとも自然に湧いてきたものをかたちにする?

小路 両方かな。なにしろ締切があるので(笑)、書こうと思った時に、何かが湧いてきてそれをかたちにする感じです。

中山 書きながら、この方向に行こうと考えることもありますか。

小路 自分ではまったく考えていなかったけれども、登場人物たちが勝手に動き出す。それはあります。デビュー当時はあらすじをある程度最初に考えてから書きはじめましたが、最近は結末だけだいたい決めて、あとは導入部さえ浮かんでくれば、途中であちこち寄り道しながらも、最後にたどりつきます。

中山 スランプはないですか。

小路 僕はあんまりないです。ただスランプもないかわりに、上がっていくこともあんまりない(笑)。低空飛行で安定してます(笑)。次の展開をどうしようと悩むことはありますが、書けないということはないです。

中山 私は毎日スランプです(笑)。小路さんは歌詞はもう書かれないんですか。

小路 かれこれ十年位書いてないです。

中山 ぜひ今度書いていただきたいです。

小路 いくらでも書きますよ! 書いていいですか、ほんとに(笑)。でも、例えばうりさんの曲のタイトルで短編を書いていいですよって言われたらいくらでも書けますが、歌詞はきっと悩むよなあ。

中山 文字数が少なくて、それに必ずメロディがくっついていないといけないから。歌詞でどうにでも曲が変わってしまうのがおそろしくて、でもそれが面白くもあるんですが。

小路 歌も小説も、何でもそうだけれども、完成形がない。練ろうと思えばどこまででも練れるし、だめだと思ったらどこまででもだめ。これだ、という判断をどこでするか、僕もいつも悩みます。

中山 そうですね。きりがないです。それこそ締切でもないと終わらない(笑)。

対談2「僕たち、天然ノスタルジー」へ続く