あらすじ ☆今から30年前、突然、我南人が生まれたての赤ん坊を連れて帰ってきた。「この子ぉ、僕の子供なんだぁ」。付けた名前は「青」。堀田家は他の兄妹と同じく育てるが、成長した青は出生の秘密を気にして…(「紺に交われば青くなる」)
☆東亰バンドワゴンに初めて来た時「店の本を全部買いたい」と口走って勘一に怒られたIT社長の藤島。彼と堀田家の縁が深まったきっかけとは…(「縁もたけなわ味なもの」)
☆一人旅の途中で大事なボストンバッグを盗まれた当時20歳の亜美。偶然そのバッグと同じ鞄を持っている男を発見して…(「愛の花咲くこともある」)。
書き下ろし3編を含む全11編。

 ここのところ新刊を出す度に言っている台詞ですが、早いもので「東京バンドワゴンシリーズ」もこれで八作目になりました。八年間もの間、堀田家の出来事を皆さんにお伝えできることになるなんて、一作目を書いたときには本当に塵ほども思っていませんでした。何もかも、このシリーズを愛してくださった読者の皆さん、そして書店さんのお陰です。本当にありがとうございます。
 今年の新刊『フロム・ミー・トゥ・ユー 東京バンドワゴン』は番外編です。  作品自体は集英社WEB文芸サイト「レンザブロー」で三年も前に連載していたものです。当時の担当編集さんの「サチ以外の人の語りで、それぞれのエピソードを語るのも楽しいですよね?」という一言で始まりました。
「東京バンドワゴンシリーズ」は実はサチの語りがあってこその作品です。前回の番外編だった『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』でも語り手は若き日のサチでした。でも、他の堀田家の人間や、そこに関わる人たちそれぞれの個人的な出来事や思いは、サチだって幽霊とはいえ超能力者ではないですから語りつくせないのです。
 そこにスポットを当てようと決まりました。
 さて、それでは誰に語ってもらうか。ご存知の通り登場人物はやたらたくさんいます。全員に登場してもらってもいいのですが、それでは単行本一冊では済まなくなってしまいます。
 最初は、紺だろうとすぐに決めました。「紺に交われば青くなる」というタイトルです。堀田家の良識の府であり頭脳であり、何よりもサチと会話のできる唯一の人。彼に、異母兄弟である【青と、父親の我南人のエピソードを語らせました。他の登場人物は息子でありサチを見ることができる研人だけ。つまり、勘一の後の世代の堀田家の男たちをここで繋げることで、この番外編全体のカラーを出すことができました。
 後はどんどんスムーズに決まっていきました。何故地味な紺と才媛の亜美が結婚できたのか、その出会いを亜美に語らせる〈愛の花咲くこともある〉。『レディ・マドンナ 東京バンドワゴン』で明かされた亜美の特技は実はここで出てきていたのです。
 本当にいい人でこの先どうしようと作者も悩んでいる常連藤島が、初めて〈東亰バンドワゴン〉にやってきたエピソード「縁もたけなわ味なもの」。もちろん藤島が語っていて、相棒である三鷹もここで初登場していました。
 その他にも、青とすずみちゃんがどうやって出会ったのか、そしてあの出来事をどのように乗り越えてきたのかを青が語る「会うは同居の始めかな」。欠かせない脇役の真奈美さんが語る「言わぬも花の娘ごころ」は、シリーズ当初からの謎であった、花陽の父親であり藍子の愛した人の話です。実は真奈美さんと相方のコウさんは僕のお気に入りのキャラクターなので、二人のエピソードも「包丁いっぽん相身互い」でコウさんに語ってもらいました。研人が語る芽莉依ちゃんとの「研人とメリーの愛の歌」、そして最後にはやはりサチの語りで締めなければと、エピローグ的に「忘れものはなんですか」を入れました。
 連載したのはそこまでなのですが、単行本用に三作を書き下ろしました。木島とマードックさんという異色の組み合わせで「忘れじの其の面影かな」。やはり大黒柱に出てもらわなきゃならないだろうと、勘一の散歩にすずみちゃんにつきあってもらった「散歩進んで意気上がる」。
 何よりも、シリーズ最初から名前が出ているのにもかかわらず、故人のためにそのエピソードがほとんど語られていない我南人の妻で、堀田家の太陽だった「堀田秋実」。彼女が、我南人と出会った日のことを少しだけ書きました。「野良猫ロックンロール」です。本当に少ししか書いていないのは、いつか秋実のことはしっかりと書くつもりだからです。ひょっとしたら次の番外編かもしれません。
 ここでは藍子と花陽は語っていませんし、康円さんも祐円さんも新ちゃんもかずみちゃんも修平も脇坂夫妻も出ていませんし、何より我南人本人も語っていません。一世代前の草平だって美稲だって、ジョーもマリアも十郎もいるのです。まだまだサチ以外の人に語らせる「堀田家」を巡るエピソードはたくさんあります。いつかまた、番外編の形で皆さんにお届けできる日を楽しみにしています。