大阪会場では、エッセイストの華恵さんをゲストに迎え、本全集の編集委員の奥泉光さん、高橋敏夫さんが、『9・11 変容する戦争』(第4巻)に収録された、重松清「ナイフ」や、『イマジネーションの戦争』(第5巻)に収録された、伊藤計劃「The Indifference Engine」、小松左京「春の軍隊」などの作品をめぐってトークライブを行った。


 いじめにあう息子を持つ父親と、テレビに映る、父親の旧友の自衛隊員が海外派遣された状況が描かれる「ナイフ」。華恵さんは以前読んだときは、いじめの問題にしか目が向かなかったが、この全集の中で再読し、自分たちの今の社会と世界各地で続く戦争との近接性を感じたと述べた。また、人が殺し合い、血が流れるのが戦争であり、それらを描いたものが戦争文学だと思っていたこれまでのイメージが揺らいだという。奥泉さんは、「ナイフ」や、日本の郊外に異国の軍隊が突然現れ、戦争が起こる「春の軍隊」は、平和に見えている日常の中に戦争が孕まれている感覚を描き出していると指摘した。高橋さんは「春の軍隊」が、現在の時と場所を選ばず、突如、局地的に始まる戦争を、70年代に予見し描いた作品であると、その先見性を評価した。


 隣人同士が殺し合う状況が生む、元少年兵が辿る戦争の悲惨さを描く「The Indifference Engine」について奥泉さんは、戦争の現実を描くとき、甘い希望を書くことは出来ない。悲惨の底を嘗め尽くし描くところに小説の力があると語った。


 この全集には、現代の戦争の変化とともに、過去から今に至るまで続く、戦争が生み出す悲惨さを、文学がどのように描いているかが集められている。四回にわたるシンポジウムは、そこから私たちが戦争を、そして戦争と文学との関係を改めてどう考えるか、そのための示唆に富む内容であった。



 プログラム
9月25日
奥泉光×高橋敏夫×華恵トークライブ
戦後世代による「戦争×文学」

第1回 広島会場の様子はコチラです。
第2回 長崎会場の様子はコチラです。
第3回 東京会場の様子はコチラです。