午前中から30度を超える猛暑の中、右腕を垂直に掲げ、左足を立てた姿勢の「平和祈念像」の土台には、8月9日の平和祈念式典準備のため幌が掛けられ、その周りで作業している人たちの動作も、心なしかゆるゆると見える。
シンポジウム会場は、祈念像のある長崎平和公園「願いのゾーン」から南に徒歩10分ほどの長崎原爆資料館ホール。年配の夫婦から、若いカップル、学生の小グループなど幅広い年代層が集まった。
また、第19巻『ヒロシマ・ナガサキ』に作品が掲載されている、青来有一さん(「鳥」)・後藤みな子さん(「炭塵のふる町」)、川上宗薫さん(「残存者」)の義妹・川上郁子さんも来場し、会場に花を添えてくれた。
第1部は、広島と同様、立花隆さんの講演。立花さんは原爆投下の5年前に長崎市に生まれたが、2歳で北京に渡ったため被爆はしていない。最近亡くなったお母様の遺品整理の話から立花家と長崎の関係へと移り、さらに青年時代に原水禁活動でロンドンに招待された思い出、現在の大学での授業を通しての学生たちとの交流など、プロジェクターを用いながら熱弁をふるった。
第2回の川村さんと成田さんの対談は、本全集の新しさ、編集の面白さを中心に話が進んだ。編集委員がすべて戦後生まれといいながらも、すでにほとんどが還暦を迎え、戦後の長さを実感していること。そして自分たちを「冷戦世代」と呼び、「新しい形の戦争を実感した世代」とも位置づけた。
従来の「戦争文学」観も含め、そうした新しい視点を導入することで、「植民地」「女性」など、これまでにはなかった新しいキーワードが立ち現れ、それは本全集の巻立てに十分に反映されている。
2日目は、成田さんと毎日新聞西武本社報道部副部長・福岡賢正さんによる「『戦争×文学』読み方講座」。ここで成田さんは、各巻に収録された作品を読む場合、(1)舞台に鳴った時代、(2)その作品が書かれた時期、(3)それを読んでいる今という時代、この3点を意識してみるといろいろな見方ができると指摘。
また、おふたりの共通認識である、「"聞きたくないことは語られない"という歴史の罠にはまらないことが大切だ」という言葉に、会場の多くの方が大きく頷いたのが印象的だった。
広島と長崎。ともに原爆投下という未曾有の被害を受けた土地でのシンポジウムは、改めて戦争の意味を深く考えさせられるものだった。
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