まだまだ続く、北方謙三氏と綾小路 翔氏のスペシャル対談。著者として、創作に賭けるもの。ファンとして、この物語に感じるもの。それぞれの立場から、「大水滸伝」シリーズへの熱い思いを語り尽くしてもらった――!
綾小路:僕、普段から先生の「水滸伝」シリーズを、周囲に勧めまくってるんです。「これは絶対に読んだほうがいいから!」と、全巻買ってプレゼントしたりして。
北方:おお、それは嬉しいですね。
綾小路:それでまんまと「水滸伝」にハマった友人からは、「翔やんは呉用みたいだよね」とよく言われるんです。でも、呉用って嫌われキャラだから、ちょっと微妙なんですよね(苦笑)。
北方:たしかに。だったら燕青あたりのほうが、イメージに合う気がするなあ。
綾小路:燕青! それだったら僕、めちゃくちゃ喜んじゃいますよ。もっとも、ルックス的にまったく似つかない気がしますが……。
北方:そんなことないでしょう。ほら、燕青は武器を持っていないでしょ? その代わりに素手で戦えるだけの技を持っている。あなたの場合は、音楽と表現がそれにあたるんじゃないかな。
綾小路:綾小路:あまりにも光栄すぎて、熱心な「水滸伝」ファンから怒られてしまいそうですが(笑)。
北方:大丈夫、こういうのは言ったもん勝ちだから。ちなみに、こうして小説に描いている登場人物というのは、私にとっての“願望”でもあるんです。こういう存在でありたい、こう死んでいきたいという姿そのもの。「水滸伝」はとくにその塊ですよ。現実の自分には格好悪いことがたくさんあるわけだから、せめて小説の中ではとびきり格好いい男を描こう、と。
綾小路:なるほど。そう言われてみると、自分も歌詞を書く時はそういった理想を追い求めている気がしますね。
北方:理想といっても氣志團の場合、つまらない刹那ロックとは別物でしょう。もっと率直な、純情センチメンタル路線だと思う。
綾小路:無意識ですけど、そうなんでしょうか。
北方:基本的にはツッパって見せているんだけど、最後にセンチメンタルで終わる。これがいい。
綾小路:ありがとうございます。僕、六本木でハードボイルドパブと称した店をやっていて、スタッフの子たちによく、「男とはなんぞや」「ハードボイルドとはなんぞや」といったことを説くのですが、みんな刹那ロック世代なので今ひとつ伝わらないんですよね……。
北方:そういう世代にこそ、あなたたちみたいな人がガツンと教えてやってほしいですけどね。
綾小路:そのためにはまず、「水滸伝」シリーズ全51巻をすべて読ませることから始めなければいけないですね。
北方:それ、いま私が言おうと思ったのに(笑)。
綾小路:「水滸伝」は個人的に、男子にこそ読んでほしいシリーズなんですが、周囲に勧めて反応があるのは、どちらかというと女子なんです。
北方:そう、このシリーズは意外と女性が読んでくださっているんですよ。以前、ある書店で「水滸伝」のサイン会をやった時なんて、来場者の99%が女性でしたから。最近はようやく、3~4割くらい男性が占めるようになりましたけど。
綾小路:ああ、わかる気がします。今の時代に足りていない男性像のようなものが、この作品には詰まっているので、女性がこの物語を求めるのも当然かもしれません。
北方:だから私は女性に言いたいんです。現実の世界では、なかなかいい男には会えないよ、いい男というのは小説の中にしかいないんだよ、と(笑)。
綾小路:それにしても、これだけの壮大な物語を書き上げるというのは、想像を絶します。
北方:本当に、これは大変な作業ですよ。毎月締め切りがあるわけですけど、つい釣りに出かけてしまったり、酒を飲んでしまったりして、気がつけば残り10日しかない……なんてことはしょっちゅうだし(笑)。でもね、私は原稿を落としたことは一度もないんです。
綾小路:うーん、それは凄い。でも、そのプロセスというのは、相当な苦行ですよね?
北方:たとえば200枚書かなければいけない場合、最初のうちはどれだけ頭をひねっても、1枚、2枚と遅々として進まない。「これ、本当に3桁に届く時が来るのかな?」と弱気になっているうちに、時間だけがどんどん進む。そんな中である時、カチッとスイッチが入る瞬間があるんですよ。そうして一心不乱に書き綴っていたら、気がつけば200枚に達している。そんなものなんです。
綾小路:なるほど。まさに全身全霊を賭けて出し切っている印象ですね。先生がどこかの雑誌で、このシリーズに関して「もう長編はいいかな」といった発言をされているのを目にしたことがあるんですが、それも納得せざるを得ませんね。
北方:それは正確には少し意味が違っていて、私が「もういいかな」と言ったのは、日本の歴史を題材とした長編のことなんです。だから、今回文庫になる『岳飛伝』の後も、何らか新たなシリーズを立ち上げる可能性は十分ありますよ。
綾小路:あ、それは朗報です。僕もそうですが、まだまだこの物語を楽しませていただきたいと思っているファンが大勢いるはずですから。
北方:私はもう、書くことが生きることだと思っていますから、逆にいえば書かなければ生きながら死んでいるようなもの。だから表現というのは、私にとって永遠の課題なわけですよ。小説が本分で、こうして人前で喋っているのはオマケ。でも、そのオマケが面白いってのが理想的。あなたもそうでしょう?
綾小路:そうですね。もっとも、氣志團は当初、MCで盛り上がるバンドとして話題になって、むしろ歌のほうがオマケと思われていた時代があるんですが……(笑)。
北方:小説も歌も、大勢の人がそれに触れているけれど、こちらは誰か1人に向けて表現しているものだと思う。氣志團はそれを強く感じさせてくれる稀有なバンドですよ。歌は決してオマケなんかじゃない。
綾小路:ありがとうございます。勇気をいただきました。
(つづく)