第2部。ついに北方謙三氏と、綾小路翔氏とのビッグ対談が実現。小説に音楽に、2人の熱き想いが交錯する……!
北方:実は意外と前から、私は氣志團の曲を聴いているんですよ。プロモーションビデオなんかもちゃんと見ているし。
綾小路:本当ですか! ありがとうございます、凄く嬉しいです。
北方:最近は週刊誌のエッセイで、ロック評みたいなことをよく書いているんだけど、そういえば氣志團についてはまだ書いていなかったな。これはぜひ、近いうちに機会があれば。
綾小路:それは楽しみです。先生はロックをよく聴かれるんですか?
北方:うん、もともとはブルースから入ったんだけど、最近はよく聴いてますよ。
綾小路:好きなロックバンドなんて、ありますか。
北方:あまり特定のバンドにこだわりはないけど、たとえばブランキー・ジェット・シティとか、ミッシェル・ガン・エレファントあたりから、わりと熱心に聴いてますね。このあたりから、ロックというのは歌詞に言葉が多くなったような気がするなあ。
綾小路:なるほど。ブランキー・ジェット・シティにしてもミッシェル・ガン・エレファントにしても、作風的に少し先生の世界観に通ずるものを感じますよね。
北方:そう? でも、いま私が一番通じ合うものを感じているのは、氣志團だよ。
綾小路:え、本当ですか?(笑)
北方:これはリップサービスじゃなくて、本当に。あなたたちはツッパった風貌で歌っているけど、本当は優しくて凄く率直なんだよね。それが伝わってくるから、聴いた後に清々しい気持ちにさせられる。
綾小路:うわあ、本当に光栄なお言葉です。
北方:テレビで初めて氣志團を見た時は、その頭を見て、「なんだこいつらは!?」と思ったんだけどね(笑)。しかも、見るたびにその頭、大きくなっていってるでしょ?
綾小路:そうですね、少しずつ育っていきました。
北方:私はもう、あまり髪の毛も残ってないからさ。それでも負けたくないから、せめて今日はテンガロンハットを被って来たんだ。
綾小路:実はいま、凄く緊張しているんです。いつか先生にお会いしたいと、ずっと思っていたんですけど、まさかこうして対談という形でお目にかかれる日が来るとは……。
北方:私もね、あなたが「水滸伝」の大ファンだと言ってくれているのを人づてに耳にしていたから、楽しみにしていたんですよ。それに、いつだったか氣志團がライブをやった時に、「水滸伝」にちなんだタイトルを付けてくれたりもしたでしょ?
綾小路:ああ、「氣志團万博2013 房総爆音梁山泊」というやつですね。
北方:そうそう、それです。本音を言えば、最近のロックが私にはちっとも面白くないんです。どれも“刹那ロック”ばかりじゃないですか。何かにつけては、「あなたさえいてくれれば、僕はそれ以上何もいらないんだ……云々」って、そんな歌詞ばかりだもの。
(場内爆笑)
北方:でもその点、氣志團は率直でいいんですよ。
綾小路:いや、大変心強いお言葉です。
北方:最近のバンドはどこも、サウンドはいいんだけどね。
綾小路:そうですね。技術的にはみんな上手いと思いますよ。
北方:でも、上手ければいいというものでもないじゃない? 小説でも、上手な作品ほどつまらないものだから(笑)。
綾小路:たしかに、それはそうかもしれません。
北方:でも、若い作家のことについていろいろ言うのはともかく、こうしてロックまで偉そうに語っちゃうのは良くないよね。ちょっと前に、クリープハイプというバンドの論評で、「彼らの歌詞はちょっと説明的過ぎる」と批判めいたことを書いたんだ。すると、それを読んだ人から「本当にそう思いますか?」と問い詰められたので、あらためて聴き直してみたら、「あれ、そうでもないな」と思い直したりして(笑)。
綾小路:あはは(笑)。クリープハイプ、いま大人気ですよね。僕らとはまったく違う発想で曲が書かれているので、聴いていて新鮮な気持ちにさせられます。自分はもう、ストレートなことしか書けないので、すげえなって。
北方:そこがいいんですよ、氣志團は。クリープハイプに「かかってこいや、喧嘩上等!」なんて言っても、絶対かかってきやしないよ?
綾小路:そうかもしれませんけど(笑)
北方:歌詞というのは、ある部分で省略が必要だと思う。それは言葉を隠すことでもある――って、ちょっと釈迦に説法が過ぎるかな。
綾小路:いえいえ、勉強させていただきます。自分も日頃、ちょっと説明的になり過ぎるところがあるので……。
北方:あなたたちが歌の中で「我々はー!」とか、「国家権力と戦うぞー!」なんてやってるのは、学園紛争の時代を思い起こさせるよね。大勢の学生の前でメガフォンを持って、ガーッと演説を打って逮捕されるようなヤツがごろごろいた時代を。
綾小路:あ、実はまさにそうなんです。僕らの楽曲に、そういったアジテーション的な部分が盛り込まれているのは、学生運動を題材にした小説からヒントを得ているんですよ。
北方:ああ、やっぱりそうなんだ。あの「我々はー!」というテンションは、完全に学生運動のアレだもの。もう半世紀以上も前のことだから、いまの人たちにはあまりピンとこないのかもしれないけど。
綾小路:実際、ロックフェスなどで若いお客さんの前であれをやると、「このおじさん、大丈夫か?」みたいな顔をされます(苦笑)。
北方:まあ、引くヤツは引かせておけばいいんだよ。そこは「かかってこいや、喧嘩上等!」の精神でいこうよ。
綾小路:ありがとうございます。もっとも、「水滸伝」のキャラクターが相手だったら、誰一人としてそんな大口を叩ける人物はいませんけどね(笑)。
北方:「水滸伝」も、言ってみればロックなんですよ、あの世界観は。男が男として生きていく、転がろうが落っこちようが生きていく、そういう世界なので。それもあって、昔から付き合いのある吉川晃司に一度、解説を書いてもらったことがある。
綾小路:ああ、あれ(※集英社文庫『水滸伝』16巻に収録)は最高に面白い解説でしたよ! 吉川さんは自分のことを林冲だと思っているくらい、この世界観にはまり込んでいますしね。
北方:そう。まったく文章の体をなしていないんだけど、何かが伝わってくる(笑)。音楽でも小説でも、表現とは本来そういうものなのかもしれないね。
(つづく)