誰かが〈探書〉に訪れる時、一冊の虚は実になる。
誰かが〈探書〉に訪れる時、一冊の虚は実になる。
京極夏彦30周年

古今東西の書物が集う墓場。
移ろい行く時代の中で迷える者達。誰かが〈探書〉に訪れる時、 一冊の虚は実になる。

立ち止まって眺めるに、慥かに奇妙な建物である。櫓と云うか何と云うか、為三も云っていたが、最近では見掛けなくなった街燈台に似ている。ただ、燈台よりもっと大きい。本屋はこれに違いあるまい。他にそれらしい建物は見当たらないし、そもそも三階建てなど然う然うあるものではない。しかし到底、本屋には見えない。それ以前に、店舗とは思えない。板戸はきっちりと閉じられており、軒には簾が下がっている。その簾には半紙が一枚貼られている。近寄れば一文字、弔――。と、墨痕鮮やかに記されていた。

  • 表紙 破暁
  • 書楼弔堂 破暁
    好評発売中 集英社文庫 ●定価1,210円 明治二十年代の半ば。雑木林と荒れ地ばかりの東京の外れで日々無為に過ごしていた高遠は、異様な書舗と巡りあう。本は墓のようなものだという主人が営む店の名は、書楼弔堂。古今東西の書物が集められたその店を、最後の浮世絵師月岡芳年や書生時代の泉鏡花など、迷える者たちが己のための一冊を求め〈探書〉に訪れる。変わりゆく時代の相克の中で本と人の繋がりを編み直す新シリーズ、第一弾!
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  • 表紙 炎昼
  • 書楼弔堂 炎昼
    好評発売中 集英社文庫 ●定価1,210円 明治三十年代、女学生・塔子は、気鬱を晴らそうと人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた。道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは、ある幻の書店を探しているという。古今東西の凡百書物が揃い、迷える人々が探し求める本を引き合わせる“書楼弔堂”――。一人の女学生と詩人の松岡國男(柳田國男)を中心に、田山花袋、添田唖蝉坊、福来友吉、平塚らいてう等の実在する多くの著名人が交わり、激動の明治時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる。シリーズ第二弾。
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