──その心地いい距離感が読者に伝わっているんでしょうね。
 多分そうだと思います。作者として僕は、この物語の主人公は勘一だと思っているんです。勘一だったら何でも受け止めてくれる。悪いときは怒ってくれる、いいときはいいと言ってくれる。そして言わなくても分かってくれる。彼へのそういう信頼感を堀田家の家族全員が持っているんですね。自分が踏み込んでほしくないときはそっとしておいてくれるし、踏み込んでほしいときには、ちゃんと踏み込んで助けてくれる。勘一が全て中心にあって、そういう見えない安心感によって堀田家というものが出来上がっている。言ってみれば、今の時代に失われつつある、そういう信頼感や安心感が共感を呼んでいるのかもしれませんね。

──一見、「お節介」なんですが、実は裏にそんな心の機微が隠されている。ほのぼのとした読後感はそこから来ている気がします。
 見た目はただのお節介です(笑)。だけど、この人は来てほしいんだ、言ってほしいんだ、この人にはきちんと突っ込まなきゃ駄目なんだというのが、堀田家の人々には本能的に分かるんでしょう。

──最新刊では、そんな堀田家のお節介のDNAが鈴花かちゃんとかんなちゃんという幼稚園組にも受け継がれているというお話も展開します。
 はい。今回は、かんなと鈴花に何か一つお節介をさせようと決めて書きました。幼稚園の子って、けっこういろいろ考えているんですよ。僕もそうでしたからね。幼稚園の頃、すでに家を出たいと思っていたような子供なので、その頃を振り返ると、相当いろんなことを考えていた記憶があります。
 僕が通っていた幼稚園の室内に、しょぼい遊び場があって、その端っこに滑り台があった。その滑り台のてっぺんに、いつも一人で膝を抱えて座っている女の子がいたんです。僕はその子を見るたびに、あの子は、ちょっと家の事情が複雑だから、きっと寂しいんだろうな、かわいそうだなとかって考えるようなガキだったんですよ。今でも、そのシーンははっきり覚えています。
 そういうことも踏まえて、幼稚園の子でも、勘一のDNAをくんだ二人なら、大人の事情に踏み込んだ、こういうお節介もきっと考えるだろうなと……。そう思って、今回はこのお話を入れたんですね。