小路幸也さんの「東京バンドワゴンシリーズ」が10周年を迎えます。11作目に満を持してつけたタイトルは『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』。このタイトルには、10年の月日を共に歩いてきた堀田家とそれを取り巻く人々への格別な思いが託されていそうです。
そんな小路さんの思いもあってか、今回のお話は、シリーズ恒例のほのぼのとした事件に加えて、「007登場か!?」という、映画並みのスケールの大きい事件に堀田家が巻き込まれていきます。さらに事件解決に向けて、勘一さん御一行がロンドンに繰り出すという大がかりな展開に──。
読者への感謝をこめて今回は大仕掛けを考えたという小路さんに、この10年育んできた『東京バンドワゴン』への思いをうかがいました。


──「東京バンドワゴンシリーズ」、10周年おめでとうございます。
 ありがとうございます。満10年ということで、この作品を支えてくれた読者の方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
 でも、正直言うとどうしてこの物語を10年も続けてこられたのか、よく分からない部分もあるんです。僕としては、かつてテレビでやっていた文字どおりのホームドラマを書こうと思って、自分の中にあるものを、そのままスッと出しただけなんですよ。それが皆さんに受け入れられて、10年間も続けてこられたのは、何だろうなと不思議な気もするんです。

──テレビからホームドラマが消えて久しいこの時代に、『東京バンドワゴン』は一服の清涼剤になっている気がします。
 そういう意味では、パイは小さくとも、ホームドラマの需要はあるんだろうなとは思うんです。きっと、みんな心の中ではベタなお話が好きなんだろうなって。好きなんだけど、そんなこと言ってる場合じゃないし、いろんなことが複雑になって生きにくい時代になってきている。けれど、そういう時代においても、例えば、中学生の女の子がこの物語を読んで、「小路さん大好きになりました」という声を寄せてくれる。もちろん僕より年上の、60代、70代、80代の方までが、これを読んで、面白いと言ってくださる。
 それを考えると、ちょっと見えてくるような気がするんです。ホームドラマというものは家庭、家族じゃないですか。みんなが自分の「家」というものを、しっかりと持って、大事にしたら、きっと世の中は良くなる。それが一番大事なんだって思っているはずなんです。それは分かっているのに、それができないこともある。しなくてもいい時代でもある……。そんな時代にこの物語がポンと出されたことへの、ある種の安堵感なのかなと思います。

──ベタなお話といっても、決して堀田家の人々はベタベタの関係ではないですね。以前対談したミムラさん(本誌2015年5月号)も「家族の距離感が絶妙」とおっしゃっていました。
 ええ。ちょっと離れて、お互いがお互いを見ているっていう距離感ですね。それは僕の性格のせいでもあるとは思うんです。前にも言いましたけど、僕自身、別に、そんなに家族が大事と思っている人間でもないし、家が一番とも思っていない。むしろ家族に対する情は薄いほうだった。そういう人間が文章を書くことによって生まれる距離感だと思うんです。
 よく勘一が言いますね。「分かった、皆まで言うな」って。一から十まで全部お互いに言い合って、分かり合う関係というのも大事だろうけど、でも、堀田家の人々はそうじゃないのもOKだろうというスタンスです。言わずとも分かるだろう、言わぬが花、秘すれば花という感覚ですね。多分、これは日本人の中にDNAのように受け継がれている感覚な んじゃないかなとは思う。