小路 ドラマ「東京バンドワゴン」での藍子役はどうでした? 藍子というのは、妻子ある大学教授と恋をして花陽という娘を産んだシングルマザーで、絵を描く人でもある。なかなかつかみにくいとは思うんだけど。

ミムラ やっていて楽しかったですよ。でも、けっこう緊張しました。というのは、私自身が本好きなので、生みの親である原作者に悲しい思いをさせたくないんですよ。私は作家ではないけど、その登場人物をつくった側から見れば思い入れも愛情もあって、一緒に過ごした時間がある。だから、そのつくり手を悲しませたくないと思うと、どんどんハードルが高くなっていくんです。

小路 なるほど。

ミムラ 藍子の抱えている過去にしても、読みものとしては、しっとり読めたとしても、これを映像で、音声で、生身の人間が言ったらどう映るだろうと思うと、ちょっと怖かったですね。特に、のほほんとした大家族の中で、一番最初に出てくる少し生々しい話でしょう。そのあたりの表現には気を遣いました。このシリーズのファンの人たちに嫌な思いをさせちゃいけないし、これから読む人にもいい世界だなって思ってもらうために、ある意味、そこが試金石だと思いながら演じていました。

小路 ああ、そこまで考えて演じてくださっていたんだ。藍子ってとても謎のキャラクターというか、僕にとってわからない女性の集合体でもあるんですよ。

ミムラ 死ぬまで絶対腹の底を明かさない感じですよね。悪い意味じゃなくて、表向きの自分と内の自分がすごくある人だと思う。

小路 うん。だから、この物語の中では今までずっと藍子って自分の本音を一切言ってないんですよ。

ミムラ 外の人に不快感を感じさせないために、意識的に自分を引っ込めているけれど、やっぱりアーティスト気質というか、中の自分は自由でいたいと強く願っているというか。

小路 そのとおりなんです。まさに絵を描く人なんですよ。でも大丈夫。僕はミムラさんが演じる藍子を見て、あ、藍子だーって膝を打っていましたから(笑)。

ミムラ よかった(笑)。私、堀田家が集まってみんなでにかっと笑うポスター撮影の時、監督とケンカしちゃったんです。これは仲良しの大家族が売りだから笑えと言われて、「藍子はこういう笑い方はしない。そこだけは一〇〇パーセント言えます!」って、今までにない強情ぶりで、とうとうそれを押し通したんです。だからあの撮影で私だけが笑ってない。すみません、今日はそれを絶対謝らなきゃと思って来ました(笑)。

小路 すげー、やっぱり藍子だ(笑)。

みむら●女優
1984年埼玉県生まれ。2003年、ドラマ「ビギナー」でヒロインを務め女優デビュー。主な出演作に、映画「着信アリ2」「この胸いっぱいの愛を」「わが母の記」等、ドラマ「いま、会いにゆきます」「梅ちゃん先生」「昨夜のカレー、明日のパン」等多数。女優業の傍ら執筆活動も精力的に行い、著書に『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』がある。

しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴンシリーズ」をはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『夏のジオラマ』「探偵ザンティピーシリーズ」『すべての神様の十月』『壁と孔雀』『スターダストパレード』『みんなの少年探偵団 少年探偵』等多数。