小路 ミムラさんは、あの月9の「ビギナー」がデビュー作ですよね。
ミムラ そうです。あの時は、オーディションで選ばれて。
小路 僕ね、「ビギナー」を見た時に、突然出てきたこの華やかな女性、女優さんは何だろう、デビュー作なのにこの堂々とした雰囲気は何なんだろうって驚いたのをよく覚えているんですよ。
ミムラ ありがとうございます。
小路 これは本当にお世辞でも何でもない。何だ、この華やかな、人生を悟り切ったような、はつらつとした演技ができる女優さんは、一体今までどこにいたんだろうと思った。あのドラマをやっている最中はどうだったんですか。
ミムラ いやもう必死でした。たまたま高校時代にモデルをやったことがきっかけでこの世界に入りましたけど、私はもともと美術の推薦で高校に入って、あんまり遊ぶ時間もなくて、本当にずっと絵ばかり描いている毎日を送っていたんです。だから、自分が見られる側になるというのが考えられなくて。小さい頃からカメラも嫌いで、前に出るのがとにかく苦手な人間だったので、なぜ、今女優をやっているんだろうというのが時々不思議になるぐらいで。
小路 へえ、そうだったんですか。ミムラさんの演じた藍子は画家ですから、まさにはまり役だったんだ。
ミムラ でも「ビギナー」の時は大変で。お芝居は楽しいけど、ほかの人よりも随分下手だというのもどんどんわかってくるわけです。まず下手だということに自覚が出てハッとなり、いろいろ社会的なことがわかってない自分にハッとなってショックを受け、もうしなび切って、やめたいとずっと言っていたんです、実は。
小路 やりながら、どんどんボロボロになっていっちゃったんですか。
ミムラ 控え室から出られなくなっちゃうくらい(笑)。今でもトラウマだなと思うのは、「ビギナー」で使われていた曲を聞くと、涙が出てくるんです。まだショックが残っているんですね。
小路 でも、すごくいいドラマだったし、ミムラさん自身も、とても存在感を発揮していたし僕は好きでしたよ。
ミムラ ありがとうございます。いろいろ考えて、今は少し落ち着きました。何で絵が好きだったかというと、人に頼まれて描いたものを見せて喜ばれるのが好きだったからなんですね。つまり受注型。だから観客がいるという今の仕事は意外に向いているんじゃないかと思えるようになってきたんです。
みむら●女優
1984年埼玉県生まれ。2003年、ドラマ「ビギナー」でヒロインを務め女優デビュー。主な出演作に、映画「着信アリ2」「この胸いっぱいの愛を」「わが母の記」等、ドラマ「いま、会いにゆきます」「梅ちゃん先生」「昨夜のカレー、明日のパン」等多数。女優業の傍ら執筆活動も精力的に行い、著書に『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』がある。
しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴンシリーズ」をはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『夏のジオラマ』「探偵ザンティピーシリーズ」『すべての神様の十月』『壁と孔雀』『スターダストパレード』『みんなの少年探偵団 少年探偵』等多数。