老舗古書店に巻き起こる騒動を大家族の堀田家が人情あふれる方法で解決する小路幸也さんの『東京バンドワゴン』。この人気シリーズ第十弾『ヒア・カムズ・ザ・サン』が刊行されます。幽霊騒ぎやら、蔵の蔵書を巡るお上との攻防戦やら、今回も読者をぐいぐい引き込んでいく展開の連続です。
この新作刊行記念対談に「ぜひ」と応えてくださったのは、シリーズを原作にしたテレビドラマ「東京バンドワゴン 下町大家族物語」(二〇一三年十月放映)で、藍あい子こ 役をつとめたミムラさん。小路さんの作品や創作活動について、読者として女優として、本好きミムラさんの熱心な質問が飛び交います。
小路 ドラマの時は藍子役、お疲れ様でした。
ミムラ その節はお世話になりました。あの時も楽しいなあと思って原作を読んだんですが、改めて通して読むとシリーズものって面白いですね。藍子役をやったこともあって、つい藍子を探して読んでしまいますが、十作目で十年近くも経つとあんなちっちゃかった研人がこんなことを言うようになるのかとか、私の娘の花陽も大人になったなとか、いろいろ感慨深いです。これだけの数のシリーズ作品を、同じペースで、しかも過去にあるエピソードを全部ちゃんと使いつつ、新しいものを入れて積み上げていくのは、やっぱりすごいなあと思って。最初はシリーズ化の予定ではなかったんですよね。
小路 まったくないですよ。僕は四十二歳で作家デビューして、鳴かず飛ばずでまったく売れなくて、この作品も、僕のことを昔から知っている担当編集さんが、「何か明るいものを書きましょうよ」と言ってね。明るいものか……と思った瞬間に、「あ、じゃあ、ホームドラマだな」と思いついて、昔、茶の間で見ていたホームドラマをそのまま書いたんです。
ミムラ 原作がそのまんまホームドラマの構成になっているので、これを実際のドラマ脚本に書き直すのは逆に難しいだろうなって、よく現場でも話題になっていました。けっこう脚本家さんも悩まれたみたいですね。原作を読んでいても、あ、ここでCMが入るなという区切りのリズムがあるんですよね。
小路 ええ。十五分区切りで一息つけるリズムで書いているんです。
ミムラ だから、テレビになじんでいる読者がすごく読みやすいんですね。
小路 そうですね。一作目を書く時に、それぞれのキャラクターについて過去にあったことまで全部設定しておいたので、人気が出て、じゃあ次もとなった時に、「あ、はいはい」と言ってそのまますーっと行くことができたんです。
ミムラ それがすごいなと思います。以前インタビューで、一度釣り堀に針を入れれば、あとは引っかかっていろいろできるとおっしゃっていたでしょう。今回いろいろ読み直してみて、どうしてこんなふうに書けるんだろうと、そこに興味がわいて、お話伺うのをすごく楽しみにしていたんです。
小路 いやいや。でも針さえ入れればいろいろ悩まず書けるというのは本当です。
ミムラ ファンとして小路さんの情報はけっこう入ってます(笑)。座ってやる仕事が向いているから首も肩もまったく痛くならないとか、会社員のように朝ちゃんと起きて、決まったルーティンワークの一つとして原稿を書くとか。
小路 まったく会社員と同じですよ。
ミムラ 自由にやりたいと思って作家になったのに、なぜそんな朝からちゃんと仕事するのかって、ふつう思いますよね。でも、私が今まで知り合ったいろんな世界のプロの方って、結局そうなんですよ。ベースの制作活動というのは当たり前にやることなので、よしやるぞ、やらないぞということではなくて、それをやるための人間なのだという違和感のなさが逆にすごいなって思う。そこにプロの姿勢を感じます。
みむら●女優
1984年埼玉県生まれ。2003年、ドラマ「ビギナー」でヒロインを務め女優デビュー。主な出演作に、映画「着信アリ2」「この胸いっぱいの愛を」「わが母の記」等、ドラマ「いま、会いにゆきます」「梅ちゃん先生」「昨夜のカレー、明日のパン」等多数。女優業の傍ら執筆活動も精力的に行い、著書に『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』がある。
しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴンシリーズ」をはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『夏のジオラマ』「探偵ザンティピーシリーズ」『すべての神様の十月』『壁と孔雀』『スターダストパレード』『みんなの少年探偵団 少年探偵』等多数。