加賀 小路さんのご実家はどういう感じなんですか?

小路 うちは五人家族でして、父が製紙工場で働くいわゆるブルーカラーで、社宅だったんです。工場の大きな敷地があって、そこに住宅がいっぱいある。だから、周りは全部同じ工場の仲間だったので、ある意味ではとても下町に近い。

加賀 あらそう。じゃ隣近所、仲良し。

小路 全部仲良し。誰かんちに行ってずっと遊んで、そのままご飯食べて帰ってくるという感じで育ったので、東京の下町の雰囲気って何となくわかるんです。それとね、僕らは、テレビが各家庭に入ったときの最初の子どもだったんです。ちょうど小学校の一年生ぐらいのときに、ようやくうちにもテレビが来て。

加賀 皇太子のご成婚(昭和三四年)の頃?

小路 いえ、僕、昭和三六年生まれなので、テレビが普及しだした四〇年代ですね。

加賀 あ、そうか、そうか。私なんて街頭テレビの時代からだから。力道山の時代よ(笑)。

小路 僕らは、テレビっ子と呼ばれた最初の世代なんですよ。うちなんかは茶の間に床の間があって、その床の間にぼんとテレビが置いてあった。

加賀 ああ、大事に置いてあったよね。

小路 茶の間で家族そろってテーブルに座って、みんなでテレビを見る。そういう時代だったんですね。父と母、二人の姉と僕の五人で、テレビドラマをよく見てました。

加賀 その家族構成だと、やっぱり見るものがドラマになりそうね。野球とかはあんまり見なかったんですか。

小路 いや、父は野球が好きでよく見てましたよ。

加賀 チャンネル権が、どうしてもおやじにあるからね。でも私も野球も相撲も大好きで。あの頃、昭和三三年の日本シリーズで、稲尾が四連投したときなんて、並んでチケット買って外野席で見ましたもの。

小路 うわー、すごい。

加賀 お相撲も大好きで、場所中はテレビを見に飛んで帰ってましたね。テレビで見るだけじゃ物足りなくて、実際国技館に見に行きましたよ。ためたお小遣いでね。私のお小遣いじゃ、二階席の遠いほうしか買えなかったけど。でも、じゃあ、小路さんは東京の下町は全然知らないの?

小路 僕が『東京バンドワゴン』で書いている下町というのは、完全にテレビドラマで見た下町なんです。

加賀 へえ、そうなの。すごい想像力。ドラマってたとえば何?

小路 向田邦子さんの『だいこんの花』とか、ほかには『ありがとう』、『肝っ玉かあさん』、『時間ですよ』、それと家族形態でベースにしたのは『寺内貫太郎一家』です。

加賀 ああ、そうですか。我南人(がなと)がロッカーというのも面白いですよね。ああいう人が一人いるとドラマが盛り上がるし。

小路 ええ。この小説はホームドラマにしようと思って書いたんですね。で、ホームドラマなら、当然頑固おやじがいて、きっとかっこいい息子、かわいいお嫁さんもいるだろうと、ぽんぽん決めていった。そのとき、頑固じじいだけじゃ話が動かないな、どうしようと考えて、あ、ロッカーがいればいいんだと思いついて我南人を入れたんです。

加賀 そして死んだおばあちゃんが幽霊として語り部となっている。それもものすごく斬新。ああ、面白いなと思って、次はいつ出るんだろうと待ち遠しくて。

小路 ありがとうございます。

かが・まりこ●女優。
1943年東京都生まれ。62年「涙を、獅子のたて髪に」で映画デビュー。最近ではドラマ「花より男子」シリーズ等、映画「スープ・オペラ」「神様のカルテ」等、2013年、自身では初の新橋演舞場での舞台「さくら橋」に出演する等、幅広く活躍中。著書に『純情ババァになりました。』等。

しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴンシリーズ」をはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『夏のジオラマ』「探偵ザンティピー」シリーズ、「スタンダップダブル!」シリーズ、『蜂蜜秘密』『娘の結婚』『札幌アンダーソング』等多数。