小路 ドラマ「東京バンドワゴン~下町大家族物語」(日本テレビ)での堀田サチ役、お疲れ様でした。この物語は、堀田サチの語りで進んでいくので、すごく重要な役回りなんですが、加賀さんのサチは僕のイメージともピッタリで、ナレーションも最高でした。

加賀 ありがとうございます。私は小路さんの『東京バンドワゴン』のファンで、シリーズの最初から全巻読んでいますから、サチの語りが重要だと私も思っていましたよ。ずっとサチさんの気持ちで小説を読んできたでしょう。だから、サチ役は全然気負わずにすっと入れました。

小路 そうなんですよね。加賀さんがこのシリーズを全部読んでくださっていると聞いて、僕はもうびっくりして。

加賀 ええ、書店で発見して、表紙もよかったし、面白そうだと思って買ってね。そしたら本当に面白くて、それからはこの家族がどうなっていくか、毎回楽しみにして、いつもわくわくしながら読んでいるんですよ。

小路 ありがとうございます。

加賀 そうしましたら堀田サチ役のお話をいただいて。ほんとにご縁って不思議よね。

小路 加賀さんはすごい読書家だとうかがってはいましたが、まさか僕の本を読んでくださっているとは。

加賀 私、本を読むのは大好きで。読むのが速いから一日一冊は読めます。

小路 じゃあ古本屋が舞台というのも、気に入っていただけた理由でしょうか。

加賀 ええ、それはもう。私は神田生まれの神楽坂育ちで、小中学校は千代田区に通っていたので、神保町の古書店はほとんど顔なじみ。でね、有名な話があるの。学校帰りに本屋さんに行って、ずっと立ち読みしていて、あ、おしっこしたくなったなと思ったら、図々しくも読んだところまでで折って帰るんですよ(笑)。

小路 やりますね(笑)。

加賀 書店のご主人もご存じだったと思うんです。本好きの少女が毎日来て読んでるなって、見て見ぬふりしてくださってたんですね。ところが、あるとき私が澁澤龍彥さん翻訳の『マルキ・ド・サド選集』を読んでいて途中で折ろうとしたら、それはダメだよと言われた(笑)。

小路 子どもの頃にサドを読んでいたなんて、すごい。まあ僕も小学生で江戸川乱歩のけっこうなエログロものを読んでいましたけど。

加賀 その当時のほうが今より不健全なものを読んでいましたね。純文学もずいぶん読んだし、小林秀雄も読んだし、何かすごく背伸びして生意気なものを読んでいた気がします。でも今は、小路さんの『東京バンドワゴン』のような、読んでいて楽しくて、気持ちがふっと落ち着くようなものが好きですね。

かが・まりこ●女優。
1943年東京都生まれ。62年「涙を、獅子のたて髪に」で映画デビュー。最近ではドラマ「花より男子」シリーズ等、映画「スープ・オペラ」「神様のカルテ」等、2013年、自身では初の新橋演舞場での舞台「さくら橋」に出演する等、幅広く活躍中。著書に『純情ババァになりました。』等。

しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴンシリーズ」をはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『夏のジオラマ』「探偵ザンティピー」シリーズ、「スタンダップダブル!」シリーズ、『蜂蜜秘密』『娘の結婚』『札幌アンダーソング』等多数。