第3回を迎えた高校生のための小説甲子園。コロナ禍の影響で、第1回の本選は中止、第2回はリモートでの開催。第3回にして初めてブロック代表たちが東京の集英社に集結!
予選通過作品をまとめた小冊子と課題が事前に渡され、各自、それぞれライバルたちの作品を読み込み、課題の答えを用意して当日に臨みます。
10月に行われた本選の1日を抜粋してレポートします!
以下の作品を優秀賞といたします。
『まどろみの星』東海・北信越ブロック 展上 茜(金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高等学校2年)
コロナの感染拡大防止のため、本選をリモートにて開催する可能性があったため、今回は応募作品で優秀賞を決定いたしました。
優勝者には賞金10万円を贈呈いたします。
第4回『高校生のための小説甲子園』は2023年春に募集を開始する予定です。皆さまのご応募を心よりお待ちしております。
なお、10月23日に実施した本選&ワークショップの様子は、こちらの特設ページで準備ができ次第アップいたします。お楽しみに!
この度は、たくさんのご応募、どうもありがとうございました!
厳正な選考の結果、以下の7点をブロック代表作品といたします。
ブロック代表に選ばれた皆さま、おめでとうございます。
今回もさまざまなジャンルやテーマに挑戦いただきありがとうございます。
残念ながら代表に選ばれなかった作品の中には、最後の数行を変えればもしかしたら、という惜しい作品もありました。こんな発想があったとは、と驚かされる作品もありました。皆様のみずみずしい感性や文学への熱い想いに触れることができ、選考委員一同感銘を受けております。ますますのご活躍を心から祈念いたします。
〈 ブロック代表7作品 〉
優秀賞の発表は11月上旬を予定しています。
〈 総評 〉湊かなえ先生
優秀賞の作品を伝えなければならない締切日を過ぎても、決めることができませんでした。今回のブロック代表作品は、どれが受賞してもおかしくない、すべてが高水準に達していました。一般の小説新人賞の最終選考に残った作品と比べても、まったく劣るものではなく、むしろ、こちらの方がおもしろかった。
作品の優劣が本当に僅差だったため、私が読んだ時間や疲労度が評価に影響していてはいけないと、時をかえ、場所をかえ、何度も読み返しました。どうしても1作品選ばなければならないのなら、小説というもののどの要素を重視するのか。文章力か、全体の完成度か、テーマ性の豊かさか、心理描写のうまさか、構成力の高さか、驚きか、感動か……。すべてが一番という作品はなく、それぞれの作品に何かしらの一番が該当する状態だったので、その選択にも迷いが生じます。
結果、「私の心に一番刺さった作品」を選ぶことに決めました。選考委員は一人。全員平等に与えられた条件のもと、ならばその人に刺さる作品を書けばいい。来年以降、そのような傾向と対策が練られることになるかもしれませんが、小説の場合、的を狙って書いたものは大概当たりません。自分の描きたい世界に真剣に挑んだ結果、その矢が刺さったのが偶然、選考委員だったというだけです。今回、優秀賞に選ばれなかった作品も、すべてが誰かの胸に刺さっていますので、どうか皆さん、自信を持ってください。
ブロック代表に選ばれたすべての作品に、他の作品よりも抜きんでた長所があります。それが、今後、小説を書いていく際の自分の武器になることを知ってください。武器の特性を知れば、それをもっとうまく利用することができるはずです。個別の講評で惜しかった点も書きますが、それを短所と受け取らないで、まだ気付くことのできなかった伸び代だと解釈してほしい。そして、できるならこの先も新しい作品に挑み、出版業界を照らす希望の星となってください。期待しています。
〈 優秀賞作品講評 〉湊かなえ先生
神視点で描く、人類がいなくなった広い視野での世界。限られた情報と少しの学習機能しか持たない、コードにつながれた狭い世界を生きる、人造人間「彼」の視点。その二つが混ざりあった描写をするのは、難度が高く至難の業ですが、うまく書くことができています。ただ、書き分けることを意識しすぎると、文章の継ぎ目に角のようなものが現れ、なめらかに読み進めるのを阻んでしまう。そういった箇所がいくつか見られます。
人類がいなくなったあと、「この星は清々したのか、腹を抱えて笑うように、一度大きく地面を揺らした」という一文があるため(好きですここ)、地震などの大きな自然災害が起こり、街だった場所が荒廃したことは想像できるのですが、人類以外の動植物がどうなったのかということまではわかりません。枚数の限られた短編小説では、いさぎよく物語に関係しない事柄には触れない方が、テーマを伝えやすく、物語もきれいにまとまりやすいので、それでよいのかな、と思いながら読んでいましたが、後半、「彼」が詩を読む場面が出てきます。そこに「花も木も鳥も」とあるので、やはり、前半にそれに関する一行がほしかった、もしくは、詩の場面においてもこれらについては省き、人間の感情に焦点を当ててほしかった、と思いました。
では、この作品のどこが一番よかったのか。それは、作者が「他者に向ける言葉」と精一杯向き合っていることが伝わってくる点です。一日の終わりに「お疲れさん」と声をかけてくれた相手に何と返すのがベストなのか。作者の提示した「では、おやすみなさい」や「よい一日となりそうです」は、センスがキラリと光る、といった特別なものではありません。しかし、現代の世の中は私を含め、人は当たり前の言葉で癒される、ということを忘れてしまいがちです。ささやかな言葉が心に火を灯してくれることを、この作品を通じて多くの人に思い出してもらいたい。そんなふうに私に思わせたことが、決定打となりました。
おめでとうございます。
〈 優秀賞作品 〉
『まどろみの星』 展上 茜
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