来れ、全国の高校生よ小説界の甲子園に! 本来ならば、選考委員に湊かなえ先生を迎え、予選を勝ち抜いた全国ブロック8名の代表たちが集英社に集まってワークショップを行い本選の闘いを繰り広げるはずだった、第1回「高校生のための小説甲子園」。残念ながらコロナ禍の影響で、本選の開催を見合わせることになり、各ブロック代表より志河紫月さん「常夜の国に近い場所」が優秀賞に決定! 受賞の記念に湊かなえ先生と対談していただきました。
以下の作品を優秀賞といたします。
『常夜の国に近い場所』関東(東京以外)ブロック 志河紫月 春日部共栄高等学校 2年
湊かなえ先生と優勝者、志河紫月さんとの対談の模様を、後日、当WEBサイトにアップいたします。また、ブロック代表に選ばれました皆さまには、湊かなえ先生からの各作品への講評、および記念品として、1万円分の特製図書カードをお送りいたします。
第2回『高校生のための小説甲子園』は2021年春に募集を開始する予定です。
この度は、たくさんのご応募、どうもありがとうございました!
素晴らしい作品が多く、選考は大変難航いたしましたが、厳正な選考の結果、以下の8点をブロック代表作品といたします。ブロック代表作品は7作品を予定しておりましたが、東京ブロックから2作品選ばれましたので8作品となります。
ブロック代表に選ばれた皆さま、おめでとうございます。
今回は残念な結果となりました作品の中にも、文章力、アイデア力、発想力、構成力など随所に惹かれる作品がたくさんありました。
皆さまの才能の豊かさ、文学への情熱に触れることができ、選考委員一同感銘を受けております。ますますのご活躍を心から祈念いたします。
〈 ブロック代表8作品 〉
上記の通り、本選はこの8作品の中から、湊かなえ先生、文芸・文庫編集部で選考をさらに重ね、1作品を選び、10月末日に当WEBサイトにて発表予定です。
〈 総評 〉湊かなえ先生
最終選考に残った8作品を読み、それぞれの作品の完成度の高さに驚きました。文章がきちんと書けているというだけでなく、きちんと物語ができているのです。この度の応募シートに「あらすじ」や「自己PR」の欄はなく、原稿を読むだけなのに、どの作品からも、作者が何を書きたいのか、メッセージが伝わってきました。また、内容も、青春小説をはじめ、ファンタジー、SF、歴史、童話、文学と様々で、舞台も、現代はもちろん、中世ヨーロッパから近未来まで多岐にわたり、高校生の想像力の豊かさや物語の可能性を突きつけられ、幸せな読書の時間となりました。
本来なら、最終選考に残った方々に集英社に集まっていただき、そこでワークショップを開いて、最後に全員が同じテーマで新しい話を書き、優勝者を決めるという流れになっていました。これほどの個性派ぞろいなら、皆で刺激し合い、この先の執筆につながる大切なものをたくさん得て帰ってもらえたはずなのにと、惜しい気持ちでいっぱいです。
優勝かそうでないか。結果はほんのわずかな差です。それぞれの作品に対して、対面で伝えたかったことを、なるべく作者以外の方にも通じるように書きますので、どうか、この大会に挑んだ仲間同士、他の方の作品へのアドバイスも自分のこととして受けとめ、次の作品への糧としてください。
力いっぱいのチャレンジ、ありがとうございました。
〈 優秀賞作品講評 〉湊かなえ先生
半世紀ほど前のヨーロッパを舞台とした、主人公の「俺」と、身寄りのない遺体を先祖から受け継いできた私有地の墓で弔う「納棺師」の父親が、「おくり車」に乗って墓地に向かうところから、物語が始まります。
車を運転する父親の片手にある葉巻の煙から、辺り一面を覆う濃霧の景色に視界が広がっていくところが、限られた枚数の冒頭で、物語の幻想的な世界に読み手をいざなうことに成功しているので、一行目の「そこは深い迷霧の中だった。」はカットし、車がガタゴト走る場面から始まった方がよりよくなると思います。
この作品を一番評価した点は、ジャンルはミステリーではないものの、10代から20代前半とおぼしき息子と二人きりの車内で、おまえが昔書いた日記を読んだ、と話し出した父親に対する、そんなこと打ち明ける? という違和感や、桜の花が舞う様子のこまかい描写など、伏線や小物がさりげなく配置され、最後に大きな驚きと感動に繋がるところです。
遺体を丁寧に清め、墓地内にある不思議な池に映る、死者の副葬品が見せる在りし日の姿を見届けて埋葬する父親の姿を見て、納棺師を継ぎたくない息子が父親を見直すというエピソードだけでも、充分に物語として成立するのに、さらに深いベースの上で繰り広げられていたとは。最後まで読んで、改めて冒頭から読み直しても、足りなかったり盛り過ぎだったりすることなく、それがきちんと成立する書き方ができています。
惜しい点としては、埋葬される少女のエピソードをもう少し丁寧に描いてほしかった。自分を裏切って逃げた少年に、なぜ宝石の話をした? 少年は宝石を手放した少女をなぜ撃った? 撃たれた後に、最後の力をふりしぼって川に投げ捨てた方がよかったのでは? 大切な傘は少女が倒れた時、どのような状態にあったかの描写がなぜない? など、父と息子のエピソードに比べて、少女のエピソードが浅く感じられた分、ここがメインではないなとわかり、最後の驚きに想像が及んでしまいました。
とはいえ、驚きと感動だけでなく、「生きること」「死ぬこと」の捉え方、人生における「幸せ」の受け止め方というメッセージが強く伝わってくる、多くの人に読んでもらいたい作品だと自信を持って言い切ることができます。おめでとうございます。
〈 優秀賞作品 〉
『常夜の国に近い場所』 志河紫月
作品はこちら