以下の作品を優秀賞といたします。
『零落』東京ブロック 哀川(東京都立片倉高等学校3年)
優勝者には賞金10万円、またブロック代表に選ばれました皆さまには、湊かなえ先生からの各作品への講評、及び記念品をお送りいたします。
第3回『高校生のための小説甲子園』は2022年春に募集を開始する予定です。皆さまのご応募を心よりお待ちしております。
この度は、たくさんのご応募、どうもありがとうございました!
素晴らしい作品が多く、選考は大変難航いたしましたが、厳正な選考の結果、以下の8点をブロック代表作品といたします。ブロック代表は7作品を予定しておりましたが、関東ブロックから2作品が選ばれましたので、全8作品となります。
ブロック代表に選ばれた皆さま、おめでとうございます。
今回は残念な結果となりました作品の中にも、題材の面白さ、文体へのチャレンジ、壮大なテーマを規定の文字数にまとめる力など、随所に惹かれる作品がたくさんありました。
皆様の才能の豊かさ、自由さ、文学への情熱に触れることができ、選考委員一同感銘を受けております。ますますのご活躍を心から祈念いたします。
〈 ブロック代表8作品 〉
上記の通り、本選は、湊かなえ先生、文芸・文庫編集部で選考をさらに重ね、この8作品の中から1作品を選び、11月初旬に当WEBサイトにて発表予定です。
〈 総評 〉湊かなえ先生
昨年より応募総数が増えたことをたいへん嬉しく思います。小説を書くことに挑戦しようと決意し、原稿用紙約30枚の物語を書ききって、応募するのは、簡単なことではありません。それを成し遂げたことに、誇りを持ってください。まずは、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
今年はオンラインでワークショップが開催できることになったので、最終候補作をもらう前から、どのような課題がよいか考えていました。効果的な比喩の練習。喜怒哀楽の感情を「嬉しい」「悲しい」などと直接的な書き方をせずに表現する方法。しかし、応募作を読んでみると、そのような練習はまったく必要ないと、考えを改めました。
全作品、文章はとても上手です。物語に立体感を与える比喩もありましたし、きらきらとした色彩が浮かび上がってくるような描写も見られました。疾走感あふれる文章や、頭の中のカメラワークを見事に再現できている文章、流暢な口語体。高校生がここまでできるのかと、感心し通し、まったくストレスなく読み終えることができました。
ただ、それだけなのです。あえて厳しい言い方をさせてもらうと、今年の応募作の印象は「文章はうまいけれど、個性がない」です。バラエティに富んだ昨年の最終候補作とうってかわり、今年は青春小説や日常を切り取った現代小説が多かったからではありません。優秀賞の作品は、昭和20年代の設定ですが、だから選ばれたのではありません。「なるほど、そういうことか」と最後に唸らされる場面があったからです。
とはいえ、ここまで書ける方たちが、「個性」という武器を手に入れたら、逆に、怖いもの知らずです。ワークショップでは「武器の手に入れ方」の手伝いができることを目標に、課題を作りました。オンラインではあるけれど、最終候補に残った小説仲間同士が刺激を受け合い、そこで得た武器で、まずは私が倒されることを、心より期待しております。
〈 優秀賞作品講評 〉湊かなえ先生
昭和20年代を舞台にした、売れない画家の主人公と、人気小説家の男性の、友情を描いた物語です。時代設定だけでなく、文体も昭和の文学を感じさせるもので、作者はこの時代が描かれた作品が好きで、自分も挑戦しようと思ったのかな、などと感じながら読み始めました。
友人から「重篤な病」という手紙が届き、あわてて病院に駆けつける主人公。しかし、友人はケロッとした様子。実は、ケガをしただけなのだ、と。主人公は友人から、とある景色を「撮してきてくれ」と頼まれます。しかし、主人公はカメラを持っていないし、そんな高価な物を買うお金も持っていない。とはいえ、主人公の画風は「写実画」。そこで主人公は……。
才能があるのに殻を破りきることができない人に、段階的にミッションを課して、その才能を花咲かせる。この設定はまったくめずらしいものではありません。だからこそ、見せ方が重要で、それが「個性」となります。時代設定、誰が誰にという関係性、才能の種類、ミッションの方法。
画家と小説家の関係性を表す、常に小説家が主導権を握っている会話。その中に、さりげなく「夏は夜船、冬は北窓」という言葉が入ります。朴訥な主人公を博識な友人がからかっているような場面ですが、最後に、これは主人公に海外渡航を目指すことを促す伏線だったことがわかります。
なるほどそういうことか! と手を打ちました。だからこの時代だったのか、とも。時代を決めたのが先だったのか、伏線を考えて、カメラの入手や海外渡航の難しい時代を選んだのか。どちらが先でも読者には関係ありません。ありがちな設定を、自分の物語に作り上げたことに拍手です。「主軸となる水流は灰を中心に――」といった絵の描写をしているところ、油絵の具のにおいにふれているところもよかったです。
表現の仕方がぎこちない部分もややありましたが、手を打った途端に忘れました(笑)。今後のご活躍を期待しています。おめでとうございます。
湊かなえ先生からサイン入り著書を贈られた哀川さん。
〈 優秀賞作品 〉
『零落』 哀川
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