特別対談 ピエール瀧 × 新庄耕 「小説と映像、溶け合う境界」
他人の不動産の持ち主になりすまし、勝手に売却して大金を騙し取る。その詐欺の名は、地面師─。新庄耕の同名小説を大根仁監督が実写映像化した、Netflixシリーズ「地面師たち」が大ヒット中だ。最新作の本書『地面師たち アノニマス』は、大物地面師・ハリソン山中が率いるグループのメンバーらの過去を描いた、前日譚にしてスピンオフ短編集。ドラマで法律屋の後藤を演じたピエール瀧は、本書をどのように楽しんだのか? 作者に言いたいことがあるそうで……。ドラマ第三話に登場した六本木「atelier
森本 XEX」で、初対談が実現した。
2024年9月30日、六本木「atelier 森本 XEX」にて。構成/吉田大助 写真/神ノ川智早
新庄 この本(『地面師たち アノニマス』)は、『地面師たち』に出てくるキャラクターの前日譚を描いたスピンオフ短編集なんですが、俳優さんたちのイメージをお借りして書いていったんです。
瀧 映像からのフィードバックでお話を作ってくださっていると思って、めっちゃ楽しく読みましたよ。
新庄 個々のエピソードに関しても、だいぶ映像に依存しているんです。小説寄りの話もあればドラマ寄りの話もあり、これは小説と映像、どっちに寄せて書いている話なんだろうと自分でも分からなくなる瞬間があったんですが、もういいや、と(苦笑)。世界線が混線しまくっている。
瀧 どっちもごちゃ混ぜのパラレル・ワールドの話です、みたいな(笑)。
新庄 ドラマのファンブックに近いかもしれません。
瀧 竹下の話(「ルイビトン」)なんて、「ルイビトンっ」から始まるじゃないですか。ドラマに出てくるセリフですよね。
新庄 初めて撮影現場に行った日が、「ルイビトンっ」のシーンだったんですよ。
瀧 あれ、北村(一輝)さんのアドリブで出てきたセリフだったんですよ。こっちは笑いを堪えるのに必死でした(苦笑)。そうか、あの撮影にいらしていたんですね。
新庄 二回ほど観に行かせてもらったんですが、一回目が東宝の第一〇スタジオに設営されたハリソンルームでの撮影の日で。ハリソンルームは原作にはないものだし、脚本でも部屋の描写は二行ぐらいしか書いてなかったんです。ワンルームに毛が生えたような感じなのかな、それだとハリソン感が出ないなぁと思って現場に行ったら、目が飛び出ましたね。
瀧 あの部屋自体に、ハリソン感がありますもんね。
新庄 たじたじになっちゃいました。瀧さんは最初にハリソンルームをご覧になった時、どうでした?
瀧 部屋の規模感にも驚きましたが、細かい作り込みがすごいんですよ。壁とか柱とか、置いてある物だったりとか。あれ、美術さんが作っているんですが、こんなに隅々まで目が行き届いているんだったら、こっちも芝居するうえで指一本の動きまで気が抜けないなというか……。
新庄 プレッシャーを感じる?
瀧 プレッシャーというよりも、気が引き締まる感じですね。きれいな皿があって、きれいな刺身を盛り付けるなら、ツマも上手に盛り付けたくなるじゃないですか。そこまでやったほうがいいだろうなというマインドになりますね。そうやってみんなでどんどん精度を高めるというか、純度を高めていく。例えば、後藤はどの時計を着けるかということも打ち合わせして、結局あの白いやつに落ち着いたんです。
新庄 あれ、相当な値段がすると聞きました。
瀧 らしいですよね。僕もあんまりよく分かんないですけど、確かにこういう人、白いのしてそうとは思いました(笑)。そういうことの積み重ねなんですよ。首の磁気ネックレスみたいなやつも、あえてああいうものを選んでいるんだろうし。実はあれ、竹下と同じやつを着けているんです。
新庄 えっ!?
瀧 おそらく竹下と後藤は、わりと近い仲なんですよね。「竹ちゃん、それええな。どこで買うたん?」「後藤のも買ってきてあげるよ」みたいなやり取りがあって、それを着けているんじゃないか。そういった背景を感じるようなものがあると、竹下が壊れていく時に「どうしたんや、竹ちゃん」というような顔をしたほうがいいな、となっていく。イメージを喚起させるようなネタがあればあるほど、やりやすいと言ったらヘンですけども、お芝居をしていて面白いんです。
新庄 この対談をしているのは、第三話に出てきた店なんですが、あのシーンで着ている瀧さんのナイキの服、絶妙でした。
瀧 カネは持っているけど、センスが微妙という(笑)。スタイリストの伊賀大介さんが用意してくださったんです。
新庄 ああいう人、いますよね。
瀧 いますよね。ゴルフウェアは、よそ行きになると思っている人(笑)。
後藤が使っているのはうさんくさい関西弁です、というエクスキューズを入れる使命がありました(笑)
瀧 大根さんは電気グルーヴの映画の監督もお願いしたり、その前から普通に友達だったものですから、「瀧さん、今度Netflixで作品やるんで、出てください」と言われた時は、「いいっすよ」と。「何撮るの?」と聞いたら、「『地面師たち』という話です」「あっ、もしかしてあの五反田の?」。
新庄 五反田の土地の地面師詐欺事件のこと、ご存じだったんですね。
瀧 知ってました、知ってました。あの当時(事件が起きたのは二〇一七年)、結構なニュースになっていたじゃないですか。ただ、どうしてあんなに大手の不動産会社が騙されたのかとか、どういう手口だったのかとか、謎の部分が多いなとは思っていたんです。大根さんに「事件を基にした小説があって……」と教えてもらったのが、新庄先生の小説との出合いでした。一応、「どっち?」って聞いたんですよ。騙す側なのか、騙される側なのか。「そりゃあもちろん詐欺師側に決まってるじゃないですか」と言われて、「まあ、そうだよね」と(笑)。
新庄 今日は瀧さんに謝りたいことがあるんです。後藤は関西弁、という設定にしてしまって申し訳なかったです。大変でしたよね。
瀧 いえいえ。ただ、大根さんには最初に言いましたけどね。「関西弁なの? 標準語になんない?」「いや、それは原作の小説がそうなんです。ダメです」。今、ネットですっげえ叩かれてますもん、瀧の関西弁がヘタ過ぎるって。
新庄 でも、ネットの反応を見ていると、瀧さん、大人気ですよ。Netflixさんも公式Xで、瀧さんが言う「もうええでしょう」のまとめ動画を出しているじゃないですか。とんでもないバズり方ですよね。あのセリフ、原作小説では一度も出てこないんです。
瀧 「もうええでしょう」問題、ここで記録してもらっていいですか?(笑) あんなにバズりましたけど、僕もバズるとは思ってないし、たぶん大根さんも思ってなかったんです。むしろ僕、やめませんかって言ったんですよ。やっているうちに言い過ぎじゃないかなと感じてきて、撮影時に「何か他の文言に変えません?」と。大根さんは「あ〜」なんて言いながら全然代替案は出てこずで、最後までいったらこうなりました。
新庄 流行語大賞、取るんじゃないですか。他のやつは世間的にも厳しいじゃないですか。ハリソンの「最もフィジカルで最もプリミティブでそして最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」とか。「もうええでしょう」は、子供からお年寄りまで安心して使えます(笑)。
瀧 たまに一般の方とかに「瀧さん、『地面師たち』面白かったですよ!」と話しかけられるんですけど、向こうは明らかに「もうええでしょう」を聞きたがってるんですよ。それがキツい(苦笑)。関西弁の正確なイントネーションをもう忘れちゃっているので、野良ではうまく言えないんです。撮影の時は方言指導の方が現場にいらっしゃって、教えていただいたメロディー込みでセリフを覚えてやっていたんですよね。ただ、セリーヌ・ディオンの曲をずっと聴いているからって、セリーヌ・ディオンと同じには歌えないじゃないですか。関西弁、自分ではできていると思っても、完璧に再現するのは相当難しかったです。違和感があるという関西弁ネイティブの人にオススメしているのは、スペイン語かドイツ語で見てくれ、と。一切気にならなくなりますよ、と。それができるのがNetflix。
新庄 いっそ、馴染みのない言語で(笑)。
瀧 トルコ語とかどうっすか、みたいな(笑)。
新庄 後藤を主人公にした短編(「ランチビール」)では「エセ関西弁」って表現を入れたんですが、一作目を書いた時からそういうイメージだったんですよ。僕は、親は関西出身ですけど、自分はずっと東京育ちなので関西弁の正確なニュアンスは分からない。ネットの「なんJ民」が使っているような、うさんくさい関西弁設定ではあったんです。後藤はそういう設定なんですというエクスキューズを入れるのが、『地面師たち アノニマス』の使命の一つでした(笑)。
瀧 僕はシンプルに、「また関西弁じゃん!」と思いました。映像のほうでも続編なのか何なのか、あるかもしれないじゃないですか。僕、現場に来た新庄先生に言いましたよね。「次は関西弁じゃないのにしてください」って(笑)。
新庄 すみません。標準語から関西弁に切り替わるところを書けばよかったかもしれないですね(笑)。
後藤の話は「世の中め!」という厭世観増し増し、竹ちゃんは竹ちゃんのままでええなぁ、と
瀧 地面師グループの中で後藤だけ、家族がいる設定じゃないですか。根っからの悪じゃないというか、土俵際で一歩踏みとどまっているというか。この人はいろいろあってこうなったんだろうなという、「仕方なしに」感が滲んでいるなと思っていたんです。今回の『アノニマス』に入っている短編を読んで、あぁ、なるほどなと思いました。後藤は司法書士事務所でカタギとして一生懸命働いていたんだけれども、よかれと思ってやったことが全部裏目に出てしまう。「世の中め!」という、後藤の厭世観増し増し部分を面白く読ませてもらいました。見た目に異様に執着する、麗子の話(「天賦の仮面」)も面白かった。
新庄 後藤と麗子に関しては、ハリソンから誘われて、地面師になるきっかけのエピソードが書けたらなと思ったんです。
瀧 辰(刑事)とか青柳(石洋ハウス)の話も、過去にこういうことがあった人たちが後にああなるのか、と整合性がついていく感じがしました。そんな中で読んだ竹下のエピソードのホッとすること、ホッとすること。竹ちゃんは竹ちゃんのままでええなぁ、という感じでした。倒れて前歯が吹っ飛んだ時に、ぶつかってきた相手じゃなくて前歯に怒るところとか「竹ちゃんやないか!」って。
新庄 一番書きやすかったです(笑)。
瀧 先生さすがだなと思ったのは、そのシチュエーションとかキャラクターを説明するのに、二行ぐらいの文章でバッとイメージを掴めるんですよ。竹ちゃんと競馬場に来た女が、「画面にクモの巣状のヒビが入ったスマートフォンを気だるそうにいじっている」とか。竹ちゃんとの関係性と競馬場に連れてこられた退屈さと、女の人の生活感というのが一発で分かる。そういう文章が結構あるんです。
新庄 ありがとうございます。最近は、まず最初にどういう話にするか決めてから脚本を起こして、そこから小説にしているんです。いろいろな「絵」が見えてから書くようにしているので、そういうディテールの部分も昔より大事にできるようになった気がします。
瀧 あと、背中で感じるシーンがちょいちょい出てくるじゃないですか。相手の動きを直接見てはいないんだけど、背中で気配を探って……と。先生はいつもそ知らぬふりして、背中でいろんな人の話を聞いているんだろうなと思いました。面白い話が始まったぞとなっても、聞いているのがバレないように背中で吸収しなきゃ、みたいな。
新庄 ビビりで、めっちゃ気にしぃなんですよ。どうせ俺の悪口を言ってるんだろうなと思っちゃうので、人に背中を向けるのが怖いんです。その感じが文章に出ているのかもしれません。
瀧 フェティッシュですよね、いろんな表現が。正直だなぁという感想はヘンですけど、表現をわりとオブラートに包みたい人もいるじゃないですか。むき出しでドンッと置いてくれるんだなというのはすがすがしい感じもありました。ハリソンが「清きアヌスが」とか言い出す場面とか(笑)。
新庄 この本から担当編集者が替わって女性になったので、原稿を渡す時に一瞬躊躇はしたんです。こんな表現読ませていいのかなと思ったんですけど、二徹ぐらいしていたので、もういいやって(笑)。
瀧 いやいやいや、最高ですよ。読みながら、声が聞こえてくるんですよ。僕の脳内の豊川(悦司)さんが、静かなトーンで「アヌス」。大手柄ですよ、先生(笑)。
地面師詐欺はもちろん犯罪なんだけれども、 やっていることは悪だくみを超えたものになっている
新庄 豊川さんは独特の雰囲気をお持ちですよね。
瀧 独特ですねぇ。
新庄 東宝スタジオへ見学に行った時、本番の撮影が終わって「はいカット」となったら、他のみなさんはパッと切り替えて休憩室に移動するのに、豊川さんはスタジオの端っこにある高いスツールに腰掛けてずっと佇んでいる。待機中ですらハリソン山中だった。
瀧 完全にはスイッチを切らないんです。常にアイドリング状態で待機してらっしゃる感じでした。
新庄 拓海役の綾野剛さんもものすごい気合いの入り方で、びっくりしました。
瀧 僕みたいな人間は、大根さんがOKと言えばOKでしょうという感じなんですが、彼は責任感を持って臨んでいた印象ですね。拓海のキャラを掘り下げて、いろいろな演技のパターンを試していらっしゃいました。
新庄 『地面師たち』を書こうと思った時に、主人公をどうしようかというのが一番最初の大きな問題だったんです。根っからの反社っぽい人間だと、あまり書く気がしない。もともと表の光の世界にいた人が、何らかの事件があって堕ちてきて、今は地面師をやっているという話だったら書いてみたいなと思ったんです。そういう人間が、信頼できると思える、あるいはこいつだったら手下になってもいいという親分を作りたいなと試行錯誤していったら、ハリソン山中が生まれたんです。
瀧 地面師グループは、「必殺仕事人」シリーズみたいな昔の時代劇の人物配置とちょっと似ていますよね。後藤は同心だけど、実は裏で悪いことをしている。麗子は街へ繰り出して、変身したりしながら情報を引っ張ってくる。竹下はニヒルな瓦版屋みたいな感じで、裏でいろいろやっていて……と。
新庄 『七人の侍』もそうですよね。拓海とハリソン山中のキャラが決まった後、後藤、竹下、麗子は何の迷いもなく、すぐに出てきたんですよ。自分が見てきた作品からの影響があったのかなと思います。
瀧 やっぱり、ハリソンがでかいですよね。ハリソンという絶対的な存在が真ん中にいるから、周りは個性がわちゃわちゃしていても、チーム全体の統一感が出る。油が引いてある、と言ったらヘンですかね。ハリソンという油が引いてあるから、僕らが鉄板にのった時に、ちゃんとジューッピチピチッと跳ねられるのかなと思います。
新庄 高倉健さんの任侠映画を観ると、映画館を出た後にみんなが健さんのマネをして、肩で風を切って歩いていたっていうじゃないですか。最近もやくざ系の映画とかドラマはありますが、キャラクターに憧れたって感想はあまり聞かないなと思うんです。「地面師たち」は、憧れるって声をよく聞くんですよ。大企業を騙し抜くというゴール設定が、多くの人の心に引っかかったのかなと思ったりしました。
瀧 ハリソンが企んでいることって、単なるお金儲けとは言い難い。構えがでかいというか、道徳であったり社会システムそのものを破壊しにいっている感じがありますよね。ハリソン自体は純粋な悪だし、地面師詐欺そのものはもちろん犯罪なんですけれども、やっていることは悪だくみを超えたものになっている。鮮やかさも含めてでしょうけど、そこに憧れるのかもしれませんね。
フィッシング詐欺で六七万円を振り込む、 詐欺の小説を書いている人なのに!(笑)
新庄 ドラマを観た人のコメントをチェックしていたら、自分も地面師になりたい、憧れると言っている人が結構いるんです。模倣犯がいっぱい現れるんじゃないかって、ちょっとドキドキしています。
瀧 最近、司法書士会のお偉いさんが詐欺でとっつかまったじゃないですか。SNSで、「リアル後藤だ」とか「第一話に出てくる司法書士を見習え!」とか言っている人がいましたよ。
新庄 後藤が本人確認の手続きをやめさせようとするんだけど、「僕にも司法書士としてのプライドがあります」と言って、貫徹するんですよね。
瀧 カモにならないためにも、不動産関係にちょっとでも興味がある人は観たほうがいいですよね。読んだほうがいい。
新庄 『地面師たち』を書く時にいろいろ取材したんですが、今でもすごく印象に残っている話があります。ある人がマンションを一棟売ることになったんですね。いよいよ先方と契約書を交わしますという時に、売買価格の〇が一個間違っていたんです。
瀧 多かったんですか。少なかった?
新庄 少なかった。売値は本当は数億だったのが、数千万で売っちゃったんです。その契約書を作ったのは先方なんですよ。
瀧 うわっ、それって……。
新庄 実印を押しちゃったので……。あっちの言い分としては、「すみません、見落としてました」と。本当に間違えたのか、あえてやっていたのか。これを、詐欺と言うのかどうか。
瀧 震えますねぇ。
新庄 カネを儲けたという行為は明らかなんだけれども、相手に「騙すつもりじゃなかった」と言われたらそれまでというか、心の問題になってしまう。詐欺は、証明することがとても難しいんです。
瀧 ネットやらスマホやらが出てきたせいで、詐欺の件数は二〇年前とかと比べたら莫大に増えているんでしょうね。
新庄 増えてますね。僕もこの前、騙されましたもん。フィッシング詐欺。
瀧 それ、ネットの記事で見ました。何で引っかかっちゃったんですか?
新庄 その前日に、イタリアのサイトをちょこちょこ見ていて、商品を買うために個人情報のデータを入れていたんですよ。そうしたら、翌日にマイクロソフトから、それ自体はウソではなかったんですが、あなたの個人情報とパスワードが外部に漏れています、今すぐ変えてくださいという連絡が来て、マイクロソフトから何から全部変えたんです。それでドタバタしていた日の夜に、銀行から「あなたの銀行口座が狙われています」というショートメールが届いて、やばいやばいとインターネットバンキングに情報を入力して、わけ分かんないやつに六七万円送金したんです。
瀧 テンパっちゃった。
新庄 友達にそれを報告したら、「それ、おじいちゃんが騙されるやつだ」って(笑)。後から考えると、なんでそんなバカなことをしたのかと思うんですけど、その時は必死ですから。
瀧 詐欺の小説を書いている人なのに!(笑)
新庄 詐欺は絶対なくならないな、と身をもって実感しました。
映像に関して僕にできることがあるとしたら、 一切口を出さないことだと思ったんです
新庄 今回のドラマは、瀧さんの相棒である、石野卓球さんの劇伴もめちゃくちゃ良かったです。卓球さんが劇伴を作ったのって、初めてなんですよね。
瀧 そうなんです。僕とやっている電気グルーヴでは、彼はコンポーザーの面が強いんですが、DJとしての顔もあるんですよね。DJって現場に行って、お客さんたちの場の雰囲気、お客さんたちのノリを見ながら、次はこの曲だろうというものを提出していく。おそらくそれと同じ感覚で、こういうシーンだったりこういうムードの時はこれっしょという音楽を当てられるんでしょうね。彼が作るトラックは何千曲と聴いてきましたけど、やっぱりすげえなぁと思いましたね。
新庄 これは大根さんが企画書で書かれていたことなんですが、日本の映画やドラマは音楽、劇伴がもう一つ足りないところがあるから、絶対になんとかしたい、と。どういう感じになるのかなと思ったら、こういうことだったのかと。映像って総合芸術なんだな、と改めて感じました。何か一つでも欠けていたら、今の結果にはならなかったかもしれません。
瀧 全七話を、何度も観ている人が多いらしいんですよ。こういう話って手口とネタが分かっちゃったら、二回目を観ることってあんまりないと思うんですけど、それに堪える作品なんでしょうね。
新庄 自分の小説が映像化されるのは、初めての経験だったんです。大根さんから一話、二話の脚本を頂いた時に、プロデューサーさんからは「気になるところがあれば言ってください」と言われていたんですが、トーンはだいぶ変わっているし、話や登場人物の設定も細かく変わっていて、気になると言えば全部が気になる。原作者である自分の感覚通りにするなら、全部変えるしかないんです。そんなことは不可能だし、それがいいとも思えない。映像に関して僕にできることがあるとしたら、大根さんの感覚にお任せして、一切口を出さないことだと思ったんです。その判断が良かった、とちょっと自分を褒めてあげたい気がしています(笑)。