世界99

書店員コメント
  • ★紀伊國屋書店 福岡本店
    宗岡敦子さん
    性格と感情の喪失がもたらす、人格の分裂。 そして、クリーンな人間を目指す「呼応」と「トレース」 そこから開かれる衝撃の世界に、何度も言葉を失ってしまいました。
    また、技術革新により変貌した社会の、ある秘密が明かされていく。 その様子に、形容しがたい狂気に冒され、身体が麻痺していくようでした。 もう、アイデンティティ・クライシスが加速する、灰色の衝動が止まりません。 思考回路がショートし、意識が殲滅していくとは、まさにこの事。 歪んだ平和や平等で内包された、差別や格差、犠牲が、黒く滲み出てくるような、 パラレルワールド・ディストピア小説。 また、真実の虚偽を彷徨い続ける、人間消失のアポカリプス。
    読後も、真偽の境界線を、永遠に問われる、深い余韻が残っています。
  • ★未来屋書店 新浦安店
    中村江梨花さん
    とんでもないものを読んだ。
    一貫してブレない私の大好きな村田沙耶香でした。 上手に生きられなくて、いつも違和感を感じている者に寄り添ってくれている。 ピョコルン。もう響きからかわいいです。 これこそが村田沙耶香の世界。 何度でも何度でも私を打ちのめし、気づかせ、読む前と読んだ後の、見える世界を変えていく。
    『世界99』長かった。しかし、まだまだ続いてほしかった。 いつまでも村田沙耶香の世界で生きていたいと思った。自分にはこの個性のなくなった恐ろしい世界はある意味では幸福ではないのかなとも思う。 『生きづらさ』という言葉を考えさせられる。生きづらさを和らげるために『世界99』の自分はあらゆる世界で自分を作りあげる。 世界に属することは少しずつラベル化された自分に変えて生きていくことなのだと思う。 家庭での自分、学校での自分、職場での自分。 どれもが自分であるのに、どれもが自分でないような気もする。少しずつ自分を損なっているような気もするのだが、だいたいみんなそうなのだろうとも思っている。それは上手く世間を渡るためなのだと思っているけれど、そうか『楽ちん』であるためなのかもと気づきました。それが生きやすいから。
    被害者になり加害者にもなる。少しずつ自分を変えて生きているのだ。 差別主義者にもなれば、差別される側にもなり、性を摂取する側にもされる側にもなる。 そうやって、気づかぬうちに自分の各世界を構成していっている。
    人が望む清らかで清潔で平等な世界は、本当は犠牲の上に成り立っているし、その悲劇性を私たちは娯楽として摂取している。そのおぞましさに気づき、震えた。
  • ★精文館書店 中島新町店
    久田かおりさん
    村田沙耶香という遠心分離器にかけられているようで、必死で食らいついて読んでいました。
    一ミリの共感も持てない世界なのに、身体にぴったりとくっついて離れない、まるごと自分がそこにはまり込んでいる世界。不気味な生ぬるさで包み込まれる恐怖の快感。
    どんな言葉を使っても伝えられない世界でした。
    それでもとにかく文字として吐き出さないとパンクしそうなので、感想という形でお伝えさせてください。
    此の世に存在する偏見と差別、執着、迫害、憎悪、搾取や虐待、あらゆる加害を大きな鍋で煮込んでかき混ぜ、それを「正義」というフィルターにかけた残滓たちを詰め込んだ一冊。
    何度もページをめくる手を止め、自分の周りを確認する、知らず知らず浅くなっていた呼吸を深くし、「大丈夫、ここいいる」と言い聞かせる。
    村田沙耶香小説に振り落とされないように、タコ殴りされながらも必死で付いていく。頭と心が疲弊し、満身創痍で読み終える。そこまでして読まなきゃならないのか、と問われたら、それでも読むべきと答えるだろう。二度、三度と繰り返し読んでも、すべてを理解したとは思えない。この世界を自分の中に取り込めるとは思えない。それなのにとらわれてしまっている。
    自分の中の何かが世界99と結びついてしまっている。 理解不能なカオスだと思っていた村田沙耶香世界が、本当は今ここで起こっている普通の日常をトレースした地獄だと思えてくる。私たちと、いや、私とピョコルンの違いとは、私と空子の違いとは。
    見つけなければ飲み込まれる。
    そう思っていること自体が、すでに飲み込まれている証拠なのだろう。
  • ★未来屋書店 水戸内原店
    關在我さん
    社会や集団に適用するために「自分を消して空っぽになる」そんな思考や行動は、(特に日本人には)元来備わっている様な気がします。人間自身が「安全」や「楽」の大義名分のもと反多様性(画一的世界)へ向かっていき、結局人間は人間ではなく「家畜やペット」になっていなっていく、極端な思考世界の描写でありながら、現実にありうる世界と常に重ね合わせで物語が進行するリアリティのある怖さが伝わってきました。人間自身が持っている欲望自体「矛盾のかたまり」なんだと思います。
  • ★未来屋書店 大日店
    石坂華月さん
    この世は、弱肉強食。
    差別や偏見にまみれ、加害と被害を繰り返す、もはやサバイバルだ。主人公・空子は、シチュエーションに合わせてキャラクターを使い分ける。 八方美人、偽善者だと彼女を責められるだろうか。 みな誰かの影響を知らず知らず受けて、言葉や行動をトレースして自分という者ができ上がるのではないか。
    いろんな自分が同時進行、人によりその世界の数は数多あるはず。所謂、ペルソナの使い分けだ。ああ、出会いの数だけ分裂は止まらない。これって媚び諂いながら、世間を渡り歩くための術なのか。
    ここで終わらないのが村田沙耶香さんと言うべきか!
    空子の生きる世界には、可愛い動物ピョコルンが登場する。お金持ちのペットであったはずのピョコルンは、次第に人間の欲望のために用途が変化していくのだが...それをピョコルンに押し付けただけでは!
    自分を養うだけの自分の奴隷になるか、誰かの家電になるかというフェミニズムを描く。どこの世界で生きていても私は私なんだけど、記憶を自分の都合よく切って取り除いて縫い合わせたらなんとかなるという感覚は人が生きていく上で備わった能力のひとつなのかもしれない。
    今日も世界中で分裂は止まらない。
    世界99になって叫ぶわ。
    新年早々、ものすごいの読んだー!
  • ★TSUTAYA BOOKSTORE イオンモール白山
    宮野裕子さん
    いかにも人間が選びそうな、ありそうな未来でおそろしいです。
    人間はクリーンタウンに住み、醜い感情をクリーンに漂白しても、なお差別も傲慢さも無くならない。被害者ながらに加害者になりうる。ピョコルンになってもそれは続く。
    ああ、苦しい。価値観が揺さぶられます!
  • ★紀伊國屋書店 久留米店
    池尻真由美さん
    読み始めると圧倒的な世界観に引き込まれ、凄まじい勢いで物語に没入していった。
    そこには私たちの知る現実とは全く異なる世界が広がっていた。変貌し続ける世界にすっぽりのみこまれ、静かにゆっくりと染まっていき、自我が侵食されていくような感覚に陥る。適応することが最善なのか、正常の境界線が分からなくなる。非現実の世界が確実に言語化されていて、近未来の一片があるように思えて驚愕した。
    一人の女性の壮絶な人生を通じて、人間としての根本、存在の価値について考えさせられた。人間に生まれた重みを感じて涙がこぼれた。
    読後、目まいがやまないような心地で、余韻に翻弄されている。予想をはるかに超えた地点に到達する読後感。ずっとこの世界が頭から離れない。
    言葉を失う、壮大でとてつもなくすごい物語。紛れもない傑作だ!
    唯一無二の読書体験を多くの方に味わっていただきたいと思う。
  • ★紀伊國屋書店 さいたま新都心店
    大森輝美さん
    なんだこの作品は…!胸がザワザワして、辛くて、気持ち悪い。吐きそうになる。作中の登場人物たちの言動だけでなく、作者から浴びせられている言葉の数々に私の感情が失われていく。(でもそれは普段私たちが浴びせられている言葉でもある。悪意がある無しは別として。だから読んでいるあいだ、余計に心が震えるのだ。)
    読んでいる間、ピョコルンを夢の中でみて、ラロロリンの人たちを思った。日常生活では私の世界も分裂した。まさに、作品の世界にどっぷりハマってしまい、抜け出せていない。読んだらもう読む前の自分には絶対に戻れない。この作品に出会ってしまったことで私のこれからの人生が変わってしまったかもしれない。恐ろしい。
  • ★アバンティブックセンター 寝屋川店
    永嶋裕子さん
    ようやく読み終えました。ほんとに重くて中身もうわぁ…という感じで、でも確かにこの厚みが必要だったな、と思いました。ひとりの人間の一生だと思うと、むしろ短いくらいかもしれません。
    村田沙耶香さんはコンビニ人間しか読んだことがなく、ほぼ未知のまま読みましたが、ある意味ホラーでした。妖怪とか霊とか、人でない存在はただただ恐ろしいですが、人間は普通の顔をして普通に生活して普通に社会に存在しているのに、一番残酷で醜くて容赦がないな、と。
    描かれている世界はどれも突飛で非現実的なように見えるけど、実は今の世の中をちょっと誇張してみると、こんな世界なのかもしれない。もう少しソフトにした世界は、今の世界でも充分存在しているのかもしれない。
    淡々と語られるおぞましい世界に段々麻痺させられて、いつの間にかありえる世界に思えてきてしまうのです。それが怖い。もしかしてこの世界のどこかでもう既に形成されてるんじゃないか、そしてそれを望む人間が増えつつあるんじゃないか。そしてその世界で生きる人間はみんな画一的に穏やかに幸せに暮らせるんじゃないか。もう誰も誰かの犠牲の上に生きなくてもいいんじゃないか。
    そんな想いに飲み込まれそうでした。飲み込むにはこれくらいの文字量が必要だったのかもしれません。
    世界99で淡々と生きていた空子が最後に母に対しての罪を償いたいと思ったり、波や白藤さんの行く末を案じたり、そこにはじめて人間らしい感情を見ました。これまでの空子からは少し意外に思えて、そう思って幕を下ろせたことにどこか安心した自分がいました。ここまで読んでそんなことを思うのは傲慢かな、とも思いましたが。
    読後しばらく戻ってくるのに時間がかかりましたが、ずっしりとした重み相当のものをガツーンと放たれた気分です。
    とにかく読んでもらって、何を感じたのか色々聞いてみたいです。
  • ★未来屋書店 碑文谷店
    福原夏菜美さん
    脳がバグります。
    倫理観、価値観が狂わされる。
    生半可な気持ちで読み始めると後悔します。
    凄すぎる……!!
    ありえない!と思いながら読んでいたのに、途中からこの世界を受け入れている自分がいました。強烈すぎて読み終わったあとも物語からうまく自分を切り離すことができず怖くなりました。(読み終わったその日の夜、みた夢にピョコルンが出てきました)
  • ★紀伊國屋書店 仙台店
    齊藤一弥さん
    村田ワールド大開放!
    まさに村田沙耶香にしか描けない完全無欠の傑作。これはディストピアなのか。はたまたユートピアなのか。
    ピョコルンという架空の存在が登場するが序盤の世界は現代日本であることは間違いない。家庭における「母親」の価値観はまさにソレで、ハッキリと言語化してしまうとこうも奴隷的であるのかと自らを省みる気持ちさえ湧いてくる。「女子」の立場の弱さ、周囲の顔色をうかがう処世術などこれまたソレらを意識した人間の思考を文字で読むと笑顔が引き攣るような気分になる。
    徐々にピョコルンの社会的役割、価値が変化していき、それと同時に人類の精神の在り方、価値観も変化していく。この変化が非常にスムーズで何の違和感もなく、空子を通して体験していると現実世界でもミリ単位で自分の思考思想がそれまでの自分と異なっていることを感じる。まるで洗脳されているようでもある。世間の価値観に自然と順応し、それまでと正反対であっても何事なく、寧ろ前からもそうだったような反応をする人達が描かれているのである種「洗脳」というワードは言葉として強めではあるが、この作品を表現するのに適したものだと思う。
    所属するコミュニティによって自分を変えることは多くの人が経験あるのではないだろうか。それを俯瞰で見ている自分。世界99の自分。世界99からの視野を持つと心は軽くなるのだろうか。世界99に居るつもりで世界5ぐらいに居る人も多そうだ。
    読後、100%世界の見え方が変わる。あなたは別世界に飛ばされる。
    その世界に踏み込む勇気はあるか。
  • ★未来屋書店 武蔵狭山店
    柴田路子さん
    人との付き合い方はその人に合わせるのが正解なのだろうか幼い頃から差別にまみれた社会に打ち勝つためには自分の身を少しずつカンナで削るような守っているはずの鎧を剥がしているようでした。
    冷静であるようで必死に耐えてるように見えた。
  • ★ブックファースト 梅田2階店
    A.Gさん
    この本に出てくる人物の言葉、行動で「一度もそんなことは言ったことない/やったことがない」と胸を張れる人だけが、この本を「ありえない世界の話」だと言ってもいい。だけどそんな人はいないはずだ。世界観はSF、未来的であるものの、今わたしたちが生きている世界で実際に起きているさまざまな事象が絡み合う。
    正直、読んでて苦しかった。村田さんの作品を読む時はいつもそうだけど、今回は特に、だった。(それでも村田さんの作品を読みたくて仕方ない)苦しいけど、目を逸らすことはしたくない。石を口に放り込まれ、完全に砕くことはできないものの、今ある自分の歯で一生懸命噛んでやると、一心不乱に読んだ。ずっと頭の中が揺さぶられて、ページを閉じても、『世界99』のことが離れず、人間関係や自分の発する言葉、言われた言葉、今の世界についていろんなことを考えすぎて体調と精神崩しかけて危なかった。こんな危険な読書経験はなかなかない。この作品の恐ろしさを感じた。
    この作品を読んだ、いろんな人の感想が聞きたい。喧嘩になってもいいから話し合いたいと思った。
  • ★明屋書店 喜田村店
    高橋杏奈さん
    感情が分からず、その場ごとに人格を作り上げながら生きる空子を見ていると『コンビニ人間』の恵子が頭をよぎり、クリーン・タウンは『しろいろの街の、その骨の体温の』に出てくる開発中の街を彷彿とさせた。『世界99』は、これまでの村田作品の芯が通っている上に、思わず怖気づいてしまうくらいの凄みを纏っていて、言葉が出ないくらい圧倒されました。脈々と流れる村田沙耶香のDNAを全身で感じました。
    空子が属するコミュニティを増やしそれに伴って世界が増えたり変わったりしていくごとに、自分の価値観が揺さぶられ続けて、ずっと混乱していた。自分とは何か、本当の意思はどこにあるのか、何が正しいのか、誰が一番の被害者なのか。答えが出ない問いを考え続けることがこんなにも苦しいなんて。いくら考え続けたって何も変えられなくて、信じていたものもいつか崩れ去ってしまうのなら、思考停止で楽に生きたい。それかもう全部やめにしたい。すべてを捨ててピョコルンになる道を選んだ空子を責めることはできないけれど、明人と同じ道を選んでしまった彼女を見て、終わりはないんだ、とゾッとした。明人から逃れられた空子が、徐々にピョコルンに対して明人と似た感情を抱くようになった場面が、他人事だと思えなくて怖い。拭えない既視感。どんなに世界が変わっても、パワーバランスは変わらない?代替がいるだけで、被害者はゼロにはならない?
    最後、白藤さんの目にはピョコルンになった私がどう映っているのだろう。白藤さんにとっての正しさはずっと変わらないままなのだろうか。最後まで答えは出なくて、空子たちがどんな思いでいるのかもわからないままで、ずっと私は苦しいままだ。それでもそのわからなさが救いだった。内臓という内蔵がえぐられ続けるような小説でした。
  • ★六本松 蔦屋書店
    峯多美子さん
    村田さんの作品を読むたびに感じることがある。
    突拍子もないことが書かれてあるようでもありながら、これは私のことを書いてあるのかと訝しむほど理解できるというか共鳴してしまうところがあって、そしてそれをいかなるときも少し恐ろしいと思う。
    物理的にも内容的にも凄まじい作品で、胸が苦しくなるほど圧倒される。読むというより格闘すると言った方がいいような、読み終える頃には、身も心もへとへとにする、それでもこれは読まなければならない途轍もない作品。
  • ★紀伊國屋書店 西武東戸塚S.C.店
    鶴見祐空さん
    すごいとしか言いようがない…途中、頭のネジが明確に外れていくフレーズが何個もあって脳や身体がバグを処理し続けてるみたいにずっと火照っていました。これは、生きにくさに対する読むタイプのワクチン?虚無のビッグバン?どう表現していいものか、言葉が見つかりません。圧巻でした。
  • ★大盛堂書店
    山本亮さん
    無垢であるために罪なき者であるために、何を用意し差し出さなくてはいけないのか?しかしその結果、人としての役割を全うした後に得られたものとは。
    納得する満足することを拒否された空虚で甘美な呆然とした世界。私たちはそんな村田さんが創造した物語のなかで生きている。
  • ★未来屋書店 姫路大津店
    沖川幾美さん
    どのコミュニティに属しどのような生活を送ろうと結局人間は自分を守ることと満たされることが最優先。
    空子の一生を通して人間の真理を見せていただいたような気がします。
  • ★紀伊國屋書店 天王寺ミオ店
    西澤しおりさん
    描かれている場所や人物、状況はありふれていて、誰もがどこがで経験したことばかり。なのに、なんでこんなにおぞましいほど違う「世界」なんだろう。未来があることさえ絶望でしかないと思える。空子の出した結末は、将来の人類の希望につながるのだろうか。
    読んだあと、凄まじい衝撃にぐらつきながらも、微笑みを絶やさないようにしなければならない気がした。
  • ★金沢ビーンズ明文堂
    表理恵さん
    読んでも読んでも終わらないディストピアに頭の中が何度も何度も爆発しました。
    ピョコルンやララロリンが何を比喩しているのか考えれば考えるほど絶望しかありませんが、絶望の手前に強烈な面白さがあってまさに震えながら読むという体験でした。
    恐ろしいのは価値観がころころ変わる世界で読む側も最初は違和感はあってもしばらく読み進めるとその価値を受け入れてしまっているところ。まさに現実世界そのものでした。
    空子のように相手によって自分をチューニングすることって多少なりともあると思います。だからこそ共感して読んでしまうし、自分が空子だと感じてしまうこともまた新たな世界Xの自分なのかもしれません。そしてそんな事を考えてしまうこと自体村田沙耶香の仕掛けた罠にはまっているのでしょう。
  • ★ときわ書房 本店
    宇田川拓也さん
    見たくない、関わりたくない、自分に降りかかって欲しくない、そんないまこの世界に渦巻いている物事が荒波のごとく押し寄せる。と同時に、見せたくない、踏み込まれたくない、心よく思わない相手に降りかかればいい、そんな自身の秘めたる内側と負の部分を「全部わかってるよ」と耳元で囁かれるような身の置き所のなさに震え続けた。
    SF要素を用いて世界と人間を壮大に描き出す生々しく猥雑でグロテスクな筆致に、かつて読んだ沼正三『家畜人ヤプー』を思い出したりしました。
  • ★ジュンク堂書店 名古屋栄店
    西田有里さん
    コミュニティごとに分離する、自分の世界。私にも経験がある。
    家族の中での顔、学生の頃の友人の前での顔、職場での顔…世界に名前まではつけていないが、それぞれの世界に順応した無害で生きやすい自分像を無意識に、時には故意に演出していると思う。
    わかる、わかる空子に重なる自分は確かにここにいると思いながら読んでいたら…遺伝子的に優れた人種のラロロリン人の存在、差別、排除のおぞましさ。愛玩動物のピョコルンが性的処理の道具として開発され…さらには出産まで代行し…そんな中で衝撃の事実。ピョコルンは人間からできているとわかり!?
    これは、物語だけの世界なのだろうか?絶望的な未来を予知した物語なのだろうか?物語の中で問われているのは、何が正しいのか、どの感情が正常なのか、時代によって善悪が移り行く中で自分は何を信じたら良いのか…
    世界99の空子を分身のように感じていたのに第二章の後半から加速的に乖離していく。明人との人間家電扱いされる結婚生活。汚染物質を摂取して体内で無毒化する宗教的な意識高い系の世界③も怖かったし、桜が散る様を嘔吐と例える空子も怖かった。
    妊娠、出産をピョコルンに任せ、自然な男女のライフステージの差をなくしても男性の性欲により女が犠牲になることは変わらない。この男女の性差の強者と弱者の力関係は何をしても埋まらないという絶望感。
    初潮が来る前に子宮を摘出し恋愛がなくなった波の世代でもなくならない痴漢。記憶の均一化と人間をピョコルンに変える儀式。平和や平穏な生活と引き換えに人間の感情や記憶がどれほど邪悪で邪魔なのか。
    おそろしいと思いながら読むのを止められない864ページでした!!
  • ★蔦屋書店 熊本三年坂
    迫彩子さん
    この世界は私たちの世界そのものだ、取り繕った世界の皮を剥げばすぐそこに世界99はある、共犯であることを指摘されたような息苦しさにあって、不思議とどこかで安心する自分もいました。
    共感ってこんなに気持ち悪くて、気持ちのいいものだったっけと陶酔していき最後はもう何も考えたくなくなる恐ろしい本です。
    ピョコルンという象徴的な生物たったひとつの存在で人は変わり、変わることを強制されました。
    世界の変化は止められない、何がおかしくて何が間違っているとかもはや考える余裕もなく、世代という区分で分かり合えなさを嘆いている場合でもなく、世界は変わっていく、その圧倒的な筆舌に打ちのめされました。
  • ★梅田 蔦屋書店
    河出真美さん
    賞味期限、生殖、差別…
    このディストピアは間違いようもなく私たちが生きてきた地獄だ。
    絶対に直視したくない世界のはらわたをつかみ出して差し出してくる。
    またしても容赦のない本をこの作家は生み出してしまった。