ある朝、私が気がかりな夢から目ざめた時、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変わってしまって─いるわけも無く、いつも通りの一日の始まりを憂いて、溜息を一つ漏らすだけだ。呻き声を上げながら布団から這い上がり、換気の為に窓を開ける。朝日がこちらを睨んでいた。気分が悪い。 いつも通りの朝だった。
綺麗な筈の朝日を、初めて気色悪く感じたのは、いつだっただろうか。綺麗な朝日だとか、雀の囀りだとか、早朝だけが孕む、少し冷たい澄んだ空気だとか、そういうものの価値がわからなくなってから、朝に怯えるようになった。夜は朝に怯えて惨めに枕を濡らし続け、睫毛が乾く頃には夜が明けて朝日がこちらを見つめている。そんな最悪な繰り返しを続けている。
グレゴール・ザムザには悪いが、寧ろ毒虫にでもなりたかった。鏡に映る自分が毒虫になる妄想を膨らませながら、洗面所で歯磨きをする。朝食は摂る気にならなかった。顔を洗って、髪を一つに結い、鉄の鎧のように重たく感じる制服を着る。父と母は既に仕事に向かったようだった。リュックサックを背負って、ローファーを履いて、意を決して玄関の扉を開けた。気分はずっと、最悪だった。
昔から人付き合いが苦手だった。噓をつくことが苦手で簡単なお世辞一つ言えず、内気で人に流されやすい。気が弱く臆病な自分は話すことが怖くて言葉に詰まってしまうことが多く、自分の意見を持てずに周囲の顔色を窺う自分の様子は、人をひどく苛立たせてしまうらしい。コミュニケーションで成り立っている学校という社会で、自分は中々周囲に溶け込めなかった。そして、高校に入って、私よりも私のことを嫌った人がいた。それだけの話だ。最初は些細な嫌がらせだったものが段々過激になってゆき、いじめのようなものになった。私が何をしてもクスクスと冷笑が響き渡る教室が嫌になって、ある日学校を休んだ。次の日も、そのまた次の日も、そのまた次の日も、行けなかった。途中までは足が動くのに、段々学校に近づく程体調が悪くなって、結局家へ戻る。そんな不毛な朝を送り続けている。
蟬の鳴き声すら上塗りされる程、心臓が煩かった。汗が背中と額を伝う感触が気色悪くて仕方が無い。眩暈と立ちくらみが代わる代わる訪れ、視界の端がチカチカと白く点滅し始めている。登校途中だというのに限界になってしゃがみこんでしまうと、胃液が喉元まで迫り上がる音が聞こえた気がした。咄嗟に口元を両手で押さえると、無意識に足元に視点が固定される。
「吐きそ……」
独りごちた瞬間、私を焚殺しようと躍起になっていた太陽の光が遮られた。突然陰り始めた周囲を不思議に思って顔を上げると、目前には、気遣わしげに表情を歪めた女の人が私に目線を合わせるようにしゃがみこんでいる。鮮やかなオレンジ色のカットソーが似合う、ショートカットの女の人だ。少し派手なアイメイクでキリッとした目元が強調されている。ひんやりとした掌が額に添え当てられると、心做しか吐き気や眩暈が和らいだような気がした。
「ねえ、ちょっと君、大丈夫?」
「え? えっと、だ、だいじょうぶです。すみません」
「そう? 大丈夫には見えないけど」
彼女は私の返答にそう小さく呟いて立ち上がり、くるりと私に背を向けて歩み始めた。呟きに反する行動に呆気に取られていると、彼女は数歩先の自動販売機の前でぴたりと歩みを止め、手にしたヴィヴィッドピンクの派手な財布から硬貨を取り出して、投入口に数枚差し込んだ。チャリンと軽快な音がして、彼女は数瞬悩んだ素振りを見せてから、最上段のボタンを押した。ガコンと叫んだ取り出し口の後に続くようにお釣り口からチャリンチャリンと小銭のぶつかる音が響く。
その様子を呆然と見つめていると、顔面の間近に青いラベルの巻かれたペットボトルが差し出された。
「はい、スポドリ。飲める?」
「は、はい。すみません、ありがとうございます」
受け取ってから、知らない人から貰ったものを口に入れちゃいけません、なんて母の言葉が脳裏を掠める。いや、これは目の前で買われたものだし、通りすがりに助けてくれようとする優しい人の善意を無下にするのも良くないし、そもそもこのまま脱水症で野垂れ死にもまっぴらごめんだし。
そんな思考たちが、脳内で小さい私に優しく言い聞かせる母親を追い払った。渇きを訴える喉に従ってキャップを開けて中身を流し込むと、僅かに眩暈が引いた気がした。
「高校までまだ結構距離あるでしょ。途中で倒れたらいけないし、遅刻になってもいいならウチで少し休んでいけば?」
ウチ? と首を傾げて彼女の人差し指の先を見れば、こんな田舎には少し不似合いなくらい、洒落たカフェが鎮座していた。外からでも店内の様子が正確に読み取れるガラス張りの壁に、大量の本が詰まった本棚と、観葉植物、黒板染みたメニュー表、シャンデリア宜しく吊るされた豪華な照明。どれも全て、この街ではないどこかの都会からそのままワープしてきたように異彩を放っている。
思わず「えっ!?」と驚愕で声が出てしまったのは仕方が無いだろう、こんな田舎に洒落たカフェがあることすら知らなかったのだから。通学路だから一応この辺りの店は全て顔見知りである筈だが、いつの間に出来たのだろうか。
「アハハ、センス良過ぎて驚いた?」
ニカッと得意げな顔で笑ったその人に、「ほら、立てる?」と手を差し伸べられ、食いつくように素早く握る。少しふらついたがそのまま立ち上がって、親鴨に従う子鴨のように付いていく。数分前とは別の意味で、心臓がドキドキと煩く騒いでいた。
「りんごジュースでいい?」
促されてカウンター席に座れば、目の前でりんごジュースがたっぷり入ったデキャンタをかざされる。
「あ、あの、私今日お金持ってなくて、だから大丈夫です。すみません」
「ハハ、子供にたかるほど経営難じゃないよ、遠慮しなさんな」
遠回しに親切を断ると、軽快に笑った彼女は「お代わりは言って」と付け足した。とてもじゃないが、お金を払えない身ではお代わりする気にはなれそうに無い。グラスを受け取って礼を言えば、また爽やかな笑顔で「どういたしまして」と返される。よく笑う人だな、と思った。
「その制服さ、東高校の子でしょ」
「え? えっと、は、はい」
唐突な質問に首を傾げながら答えれば、彼女は少しはしゃいだ様子で自分自身を指さした。赤いネイルが照明を反射している。
「私、卒業生! 昔私もよくあそこら辺で、学校嫌過ぎてバテて死にかけてたからさぁ、おそろい?」
「ふふっ、なんのおそろいですか」
思わず笑いが零れる。人と微笑みながら穏やかに話したのは、随分と久しい気がした。
「君はさ」
「吉野です」
不慣れな二人称が擽ったく名字を名乗ると、まじまじと顔を見つめられ、居心地悪くなってつい目を逸らしてしまう。昔から、人の目を見て話すことが得意では無かった。
「ふぅん、下の名前で呼びたいなぁ」
「花穂です」
「うん、花穂ちゃんね。私は幸恵ってんだ、ユキちゃんって呼んでよ」
「ユキちゃん……?」
「学生時代のあだ名さね」
初対面にしてはハードルが高い要求におろおろと戸惑ってしまう。取り敢えず幸恵さんと呼ぶことにした。
「ていうか、学校に遅刻の連絡しなくて大丈夫? 携帯貸そうか?」
思い出したように尋ねられるが、既に担任の先生に不登校生の烙印を押されている自分には無用な心配だろう。休むことが当たり前になってしまった自分への落胆よりも早く、学校に行かなくていい安堵を感じてしまう自分がいた。
「えっと、私あんまり馴染めてなくて、学校行けてなくて、だから」
「うん」
「大丈夫だと思います。今日行くって、先生に言ってなかったし」
「そっか。じゃあ連絡は大丈夫か」
覚悟を決めて自分が不登校気味であることを打ち明ければ、予想よりもさっぱりとした答えが返ってきて、ふっと体から力が抜ける。自分でも無意識のうちに、何か否定的なことを言われてしまうのではと身構えてしまっていたらしい。
「幸恵さんは、学校に行けって言わないんですね」
「うーん、行った方がいい、とは思うかな? けど……」
「けど?」
「うーん……」
思案顔で考え込んでしまった幸恵さんは、言いたいことが定まらないというより、適切な言葉を探している様子だった。自分の言葉を受け取った相手がどう思うか、慎重に考えた上で言葉を口にする彼女の様子は、人によっては優柔不断に見えるのかもしれないけれど、私はそれらが優しさで出来ているように見えて、どこか少し嬉しかった。
「結局、私は偉そうなこと言っても責任取れるわけじゃないからね。花穂ちゃんが自分で決めるべきだよ」
「……じゃあ、逃げてもいいと思いますか?」
逃げる、という言葉で濁したものの、それが退学を意味する言葉だと察したのだろう。少し難しい表情で考え込んだ様子の彼女は先程と同じように、言葉を探している様子だった。
「もちろん、ダメとは思わないよ。私は逃げるのも戦略の一つだと思ってる。ただ、逃げるっていうのは後悔することが付随してきがちだからね」
「後悔?」
「うん。だから、それよか、当たって砕けろ? みたいな」
「……砕けるのは嫌です」
当たって砕けた後が、今の自分だとは言えなかった。勇気を出して話しかけても無視され続けて、先生に相談しても見て見ぬふりをされて、愛想良く接してみれば八方美人だと悪口を言われて、そういう小さな絶望が積み重なり続けて、いつしか、抵抗することが恐ろしく感じるようになった。いじめが幼稚なことだとわかってる。わかっていても、辛いものは辛い。終わりが見えない地獄のようだった。
「そうだよね。でも、辛いなら逃げてもいいって言う人はだいたい、逃げた先で花穂ちゃんが後悔しても責任は取ってくれないもんだよ。もし、高校に行かなくなっても、いつか働かなきゃいけなくなる時が来て、結局人と関わることになる。高校から逃げた先でも逃げたくなった時、花穂ちゃんはきっと、どうしたらいいかわかんなくなると思うんだ」
幸恵さんは淡々とした話し方ではあったけれど、怒っているようには見えなかった。寧ろ、小さい子供を諭すような話し方で、不思議な感覚だった。
「そ、それでも……人が怖くて、関わりたくないんです。失望させてしまうのも、嫌われるのも、全部怖くて」
「うん。でも大人になると、どうしても他人と関わらないっていうのは不可能になるんだよ。誰も悪くないトラブルだって起きるし、自分が何一つ悪くなくても責任を負わされたりする」
「そんなの」
そんなの、理不尽じゃないか。物語の中ではいつも勧善懲悪の世界が既に出来上がっていた。ヘンゼルとグレーテルを食べようと企んだ魔女は窯の中で焼かれて死んだし、心優しいばあさんを騙して殺した狸は正義感の強い兎に背中を燃やされた。私はずっと、正義感の強い兎が自分を救ってくれることを待っていた。
「うん、理不尽だよね。でも、花穂ちゃんが今高校で理不尽な目にあってるのは、これから先、大人になった時に理不尽に立ち向かえるようになる為じゃないかな。練習、みたいな」
「練習……」
「もし、もう一度花穂ちゃんが、当たって砕けたら、責任取って高いアイスでも奢ったげるからさ」
そう笑った幸恵さんは、私の掌を両手で守るように覆った。
学校の正門に到着したものの、自分は半刻程立ち止まったままだった。練習だと心の中で自分に言い聞かせても、昔の記憶が無くなるわけではない。下校の時間を狙って靴を隠されたり、話しかけても無視されたり、変なあだ名をつけられてわざと聞こえるように悪口を言われたり。もう、全部うんざりだった。急に心の中の何かが溢れ出して止まらなくなって、涙も出てきて。今日もまた、空気のように扱われて、それに慣れた頃に耳元で「うざい」「きえろ」と囁かれるのだろうか。学校の周辺を歩くと、どうにも、嫌だった記憶が脳裏を過ってしまう。学校が近づく程に足取りは重くなってゆき、結局昇降口に着く頃には、昼休みが終わる直前になっていた。
「これは練習……当たって砕けろ……」
何度買い換えたかわからない上履きに履き替えながら、自分に言い聞かせるように口ずさむ。緊張する時に掌に人の文字を書いて食べたり、星座占いのラッキーアイテムを馬鹿正直に持ち歩いたり、おまじないの類のものは元々好きだったけれど、それらより余程効果がある気がした。何より、自分が人から貰った言葉に勇気づけられている事実が、嬉しかった。
久しぶりの教室は、拍子抜けするくらいに普通だった。なんの前触れもなく突如として登校した私にクラスメイトたちは多少驚いた顔はしていたが、居ないもののように扱われて、そのまま授業は終わり放課後になった。このまま平和に終わればいいという願望と、このまま平和に終わるわけがないだろうという嫌な予感が心の中でもたれあっている。
そして、嫌な予感というものは往々にして的中するものである。
「ね、ねえ、それさ、私のローファーだよね」
「え、えっと……」
授業は受けたからさっさと帰ってしまおうと駆け足で昇降口に向かうと、下駄箱の前で私のローファーを抱えているクラスメイトの橋本さんと遭遇した。帰りのHRも始まっておらず、他の人がいない二人だけの昇降口で、私の確信に近い疑問は悲しく響いた。
彼女はあまり率先して人に嫌がらせをするような人では無い。他の人に指示されたのだろう。気が弱く、あまり喋らず、人に流されやすい類の人間だった。少し前はピンク色が好きでよくピンク色のものを身につけていたのに、「ピンク好きはぶりっ子だ」となんの根拠も無い馬鹿げた空説をまともに信じたクラスメイトに村八分にされかけて、それから筆箱からヘアゴムまで、全て黒一色にするような、流されやすい子。他の人からよく雑用を押し付けられていた記憶がある。
「それが無いと私、上履きで帰ることになるんだけど」
「…………」
「誰かにやれって言われたの?」
「…………」
橋本さんはこくりと頷いた。ローファーを隠されて上履きで帰ること自体は初めてではないが、もちろんあまり気分のいいものではないので回避出来るのならば回避したい。けれど私のローファーを持ち帰らなかった場合、この子が他の人たちに責められるのだろうか。そう考えると無理やりローファーを取り戻すことも出来ず、その場に立ちすくんでしまう。
「はぁ……いいよ、私上履きで帰るから。それ持って行かなきゃ橋本さんが怒られるんでしょ」
「えっ、な、なんで」
「当たって砕けることにしたの。ほら、どいたどいた」
手をひらひらと振ってどこか別の場所に行けとハンドサインをすれば、ますます彼女は訳がわからないといった顔をした。正直言えば少し愉快な表情だ。彼女を押し退けて、下駄箱に手を添え深呼吸をする。
私に死ねと言った人。嫌いと言った人。うざいと言った人。ブスと言った人。学校に来るなと言った人。目の前で中指を立てた人。移動教室の行き先の噓をついた人。掃除を押し付けた人。教科書を隠した人。ロッカーに虫を入れた人。無視した人。ローファーや上履きを隠した人。ノートに死ねと書いた人。転ぶように足を引っ掛けた人。体操着をハサミで切った人。それを見て笑った人。見て見ぬふりをした担任の外靴と、覚えている限りの人のローファーを、自分の手提げ袋に雑に放り込んでいく。入学した時から今までの中で、一等楽しく感じた。
「えっ、ちょっと!? 吉野さん、どうしたの!?」
突然ローファー泥棒を始めた私を見た橋本さんが驚愕のあまりか声を上げた。彼女の、初めて聞く大きな声だった。心底驚いて、腹から出たような声。
「どうしたもクソも、私だけ上履きで帰らなきゃいけないのムカつくからさ。どうせならみんなで上履きで帰るべきでしょ」
「…………」
「……橋本さんさぁ、アイス食べに行かない? 私、女子高生だってのにまだ買い食いとかしたこと無くてさぁ、ウケるよね」
橋本さんは突然の私の誘いに、はいともいいえとも言わなかった。ただただじっと黙って、どうすればいいかわからず時間が過ぎることを待っているようなその様子に、私は鏡でも見ているような気分になった。
「橋本さんは私と絡んだら嫌がらせされるんだろうけどさ、少なくとも私は、あいつらとは違って、嫌いな奴のローファーは、ちゃんと自分の手で隠すよ。ほら、ほら」
そう言ってクラスメイトのローファーを手提げ袋に投げ入れて見せつけるように実証を続ける私に、橋本さんは困惑した表情で口を開いた。
「……そもそも、勝手に他人のローファー隠すべきじゃないんじゃ」
「アハハ、わかってんじゃん。じゃあそれは誰のローファー?」
橋本さんが手にしている私のローファーを指さして茶化すように笑えば、彼女は一度俯いてから、意志を固めたように私の目をはっきりと見て、沈黙を破った。
「買い食いは行かない。校則で禁止されてる」
「うわっ、真面目。ローファーは隠すのにね」
うんざりした顔で嫌味染みた応酬をすれば、橋本さんは私をじっと見つめて、口を開いた。
「だから、うちに来て食べるなら。安いアイスしか無いけど」
「……えっ? マジで?」
マジで、と彼女は言った。そして、少し俯いてから、それでも顔を上げた。しっかりと目を合わせた彼女は、今までごめんね、と小さく呟いた。
大量のローファーが詰まった二つの手提げ袋は二人で手分けして持ったとはいえ予想以上に重く、途中でカフェに寄って休憩しようと提案した私に、橋本さんは予想に反して素直に頷いた。
「寄り道は校則違反じゃないの?」
「……ひとクラス分のローファー盗んどいて今更過ぎる」
それもそうだね、と呟く。橋本さんは私が思っていたよりずっと愉快な人だった。教室ではどこか遠慮するような笑い方しか見たことがなかったけれど、帰り道、私との会話で滲ませた笑顔は、心底楽しそうにした、爽やかなもので、私はそれが嬉しかった。
「あれ!? ここら辺の筈なんだけど」
私が今朝蹲っていた場所に到着すると、立ち寄ったカフェは跡形も無くなっていた。驚きやら困惑やらで周りをキョロキョロと見渡していると、橋本さんは隣のレンガ造りのマンションを指さした。
「カフェは場所忘れちゃったなら大丈夫だよ。ここ、私の家。もう入っちゃおう」
「ここ、橋本さんの家だったんだ」
「うん。橋本さんって呼ばれるのムズムズするから、幸恵って呼んでよ」
全ての回路が繫がったような音が脳内で響いた。現実離れした回路だけれど、有り得ないとは思えなかった。今度はちゃんと、本人の希望通りに名前を呼んであげよう。
「じゃあユキちゃんって呼んだげる」
「ふふ、随分可愛い呼び方するんだね。花穂ちゃん、よろしくね」
差し出された手を握る。心臓は相変わらず、煩く騒いでいた。