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史進役を務める木村達成が、原作小説『水滸伝』を読む!

木村さんの読書は第四巻、「道蛇どうだの章」へ。
今回も魅力的なキャラクターが登場したようで……?

第6回

李逵りきに全部持っていかれた

──第四巻まで来ました。この巻はいかがでしたか。
木村 なんといっても李逵ですね。笑ってしまいました。李逵がどういう人間かよくわかりました。

──乱暴者だけどピュア。陰謀とか巡らせている人がいる中で、ああいうキャラクターが出てくると救われますね。
木村 僕が演じている史進ししんぐなところは李逵と似ていますが、史進がひたすら強さを求めているのに対して、李逵は何も考えていない。ここに史進よりももっと真っ直ぐな男がいたな、と思いました。

──李逵のエピソードで印象に残ったところはどこですか。
木村 ここのくだりが好きですね。母親を失った後の宋江そうこうとの会話です。

「宋江さん、ひとつきてえ」
「なんだ、李逵?」
「死ぬのは、つらいのか?」
「つらくはない、と私は思っている。決してつらくはないと。ただ、土にかえるだけなのだ」
「ほんとか?」
「私は、そう思っている。つらいのは、残された人間の方だ」
「俺はつれえよ」
「残されたからだ。それが、生きるということなのだ、李逵」
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p294)

 あとは李逵が魚をよこせ、と言い張って漁師たちともめた時に、舟に乗った男に挑発されて、舟に跳び乗るところ。李逵は泳げないのに、男と二人で水の中に落ちるんですよ。

武松ぶしょうが歩み寄り、李逵の腹に足を載せると、踏んだ。李逵の口から、盛大に水が噴きあがった。よほど飲んだのか、武松が踏むたびに水が噴きあがる。五、六度は続いただろうか。眼を開けた李逵が跳ね起き、周囲を見回した。
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p327)

 芸人さんみたいですね。ピュッ、ピュッて水を噴き上げる。笑えました。

──その漁師が張順ちょうじゅん。張順が水の中では無敵だと知り、「陸の上では、俺。水の中では、おまえ。そういうことだ」と李逵が言うのもおかしいですね。『水滸伝』には笑えるところもある。
木村 必要ですね。暑苦しい男たちが多過ぎて、おなかいっぱいになってしまうから、息抜きになる場面があるとホッとします。
李逵と武松が師弟関係みたいな感じになるのもいい。武松が、俺を兄貴と呼べと言った後の、

「兄貴の言うことは、絶対なのだぞ。死ねと俺が言えば、黙って死ぬのだぞ」
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p308)

 という台詞とかが、いいなーと思います。それから、李逵が母親を襲った虎の腹を裂いて、手を突っ込んでかき回すところは泣けました。
 李逵と出会ったことがきっかけで、宋江たちが張順たちともつながっていくとか、志の波紋が広がっている感じがしてきたのも面白い。梁山泊りょうざんぱくが起こそうとしている叛乱はんらんについては、スタートラインに立ったような、まだ立ってはいないような微妙な感じもありますが、人と人とがつながり始めていると思いました。

──江が旅をすることで、仲間が増えていく。しかも宋江の旅は武松と李逵を連れていくという、水戸黄門状態の漫遊の旅になってきました。
木村 『水戸黄門』のすけさん、かくさんと比べると、武松と李逵はかなり強いですけどね。

──二人とも素手で戦いますね。
木村 強さだけなら史進のほうが強いと思います。史進は棒術の使い手だから、木の棒は折られても、鉄の棒なら勝つでしょう。でも、史進が宋江と旅をするかと考えると、どうだろう? 耐えられないんじゃないかな。「俺がやりたかったのはこういうことじゃない」って言い出すような気がする。史進は、おのれが強くなるために生きていたいから、すべてのことを、自分が強くなれるかどうかを基準に決めるんですよ。

木村達成
木村達成

おとこ”たちの人気ランキングはやめて

 ところで、三巻に続いて、この巻でもまた宋江に少しイラッとしてしまったんです。李逵が母親に滋養のあるものを食べさせるために宋江たちの魚を奪おうとするんですが、宋江が李逵に、魚を持っていくなら「なにか返しに来い」なんて言わなければ、母親が亡くなってしまうことはなかった。宋江に悪気があったわけではないんですけど。

──李逵、よく宋江を恨みませんでしたよね。
木村 そう。おまえがあんなことを言ったからだ、みたいになってもおかしくないですよ。

──人のせいにはしないんですよね、李逵は。
木村 いいやつなんです。僕が宋江にイラッとしたのはなぜかなと考えると、宋江は普通の人間っぽくないところがあるからだと思います。言っていることの筋は通っているんですが、その通りに人が動くわけではない。本来、人として感じなくてはいけないものを感じ損ねているのかもしれない。だからこそ、国家に対する叛乱という大きなことを考えられるのかもしれないですが。

──宋江は完全無欠のリーダーというわけではなさそうです。三巻で閻婆惜えんばしゃく鄧礼華とうれいかが死んだのも、宋江が人の心を読み誤ったからでしたよね。閻婆惜が亡くなったことで、その母親の馬桂ばけいの人生も大きく変わっていきます。
木村 馬桂については、李富りふ、おまえ、何なの? って言いたくなりました(笑)。

──たしかに(笑)。スパイとして使おうという下心で、李富が馬桂に近づいていきます。
木村 李富は梁山泊の敵方、宋の青蓮寺せいれんじという組織の幹部ですが、上司の袁明えんめいにこう言うんです。

「馬桂という女の心を、おまえのものにできるかどうかだ」
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p69)

 ハニートラップを馬桂に仕掛ける。そうしたら、自分が馬桂に対してマジになってしまった。男子がやる色仕掛けは珍しいですね。

──男なんでしょうね。ドラマでも玉山鉄二さんが演じられていますし。『水滸伝』にはいろいろなタイプの男性が出てくるから、「誰推し」みたいなことになっていくかも。ドラマで人気ランキングをやるといいんじゃないですか。
木村 やらないでください、そういうのは!

──史進は上位に入るんじゃないですか。
木村 いやいや。モチベーションが下がりますから。別にモテるために史進を演じているわけじゃないから、それをやると演じる意味が変わってきてしまいます。ランキング上位を狙って、演技をそっち方向に寄せたんじゃないかと思われるのが嫌なんです。「イケメンムーブみたいな芝居してんじゃん」って思われたくない。鼻水流してよだれ垂らしながら泣きたい。イケメンムーブできれいに泣いちゃったら、役としてダメじゃないですか。

──なるほど。でも、鼻水でぐちゃぐちゃな顔にぐっとくる人もいそうですけど。特殊な趣味ですかね。ほかにどんな場面が印象に残りましたか。
木村 晁蓋ちょうがいが自分の刀を打つくだりですね。

──いいですねえ。今回、鍛冶屋の湯隆とうりゅうがいい味を出していますよね。
木村 湯隆が晁蓋に「鉄と語っておられました」と言うところがすごいいいなと思いました。
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p169)
 晁蓋が鉄を打つうちに心を決める大事な場面。それに、湯隆といえば、医師の安道全あんどうぜんに命じられてはりをつくるんです。細くて硬い鉄の棒をつくれという命令なんだけど、それって鍼だ。と。

──晁蓋が自分で刀を打って、最後は研ぐんですけど、あれ、北方先生が万年筆でやっていることなんです。
木村 どういうことですか?

──万年筆をご自分で研いで、スルスルと引っかかりなく書けるようにするそうです。紙やすりを何種類も使って。
木村 えーっ。そうなんですか。

──北方先生はいま「小説すばる」に『水滸伝』とも地続きの小説『森羅記しんらき』を連載されていますが、『森羅記』の題字を書かれたTAKAHIROさんとの対談(「小説すばる」2025年1月号)で話されていました。包丁もご自分で研ぐそうです。
木村 北方先生に親近感が湧いてきました。僕の祖父も包丁を研ぐのが好きで、自宅で砥石を使ってちゃんと研いでいました。魚をさばくのも好きでしたから、北方先生と少し似ています。

木村達成
木村達成、北方謙三「水滸伝」を読む。
第7回[了]
写真/矢吹健巳〈W〉 スタイリング/部坂尚吾(江東衣裳)
ヘアメイク/齊藤沙織 聞き手・構成/タカザワケンジ
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