☆田町家が取り壊され増谷家・会沢家として生まれ変わろうとするなか、ついに〈かふぇ あさん〉の夜営業が始まる。見慣れないお客さんとともに、不思議な事件も舞い込み……。そして、藍子とマードックのイギリス生活にも大きな転機が。さまざまな変化や試みに、堀田家は「LOVE」を胸に挑んでいく。
古書店〈東亰バンドワゴン〉を営む堀田家の日々をお届けする〈東京バンドワゴン〉シリーズも十七作目になりました。
一作目から、十七年です。一口に十七年と言いましても、生まれた子供が高校生になって思春期ど真ん中という時間が過ぎているのですよね。僕自身もついに還暦を迎えてしまいました。こんなにも長く続けていけるのは、読んでくださる読者の皆さんはもちろん、応援してくれる書店員さんや何よりも続けていこうと声を掛けてくれる集英社の〈チーム東京バンドワゴン〉の皆さんのお蔭です。本当に、ありがとうございます。
このシリーズは〈堀田家の今〉を描く〈本編〉が三作続き、〈主に過去の時代の堀田家など〉を描く〈番外編〉を一作挟むという形で今まで続いています。前作は四年に一度の〈番外編〉でしたので、今回からまた本編に戻ります。
十七作目になる今回の新刊のタイトルは『ハロー・グッドバイ 東京バンドワゴン』です。本編に戻りましたので、いつものビートルズナンバーですね。実はこの曲、中学生のとき僕は放送部だったのですが〈お昼の校内放送〉のテーマソングに使っていました。
歌詞はなかなか深い内容かもしれませんが、曲調は明るくノリも良く春にぴったりですので、読む前でも読んでからでもいいですから、ぜひ一度聴いてみてください。
また新たに三作続く本編。今回はいつにもまして、シンプルな内容にしようと考えて書き進めました。これだけ続くシリーズです。とにかく登場人物が多く、できるだけたくさんの人の様子を伝えようとすると、どうしても物語自体がインフレーションを起こしてしまい〈日常〉から離れてしまうこともあるのです。それは、〈ホームドラマ〉ではありませんよね。
タイトルの〈ハロー・グッドバイ〉は日本語にすると〈こんにちは、さようなら〉でしょうか。毎日の暮らしの中で私たち出会いと別れを繰り返します。それがあたりまえです。そのあたりまえの〈こんにちは、さようなら〉を現在の堀田家の中でシンプルに描き、次作以降の本編へ続けていこうと思いました。
新たな出会いで、また一人堀田家にかかわる人が増えていきます。そして、悲しい別れではなく、自らの意志で堀田家から離れていく人もいます。そういう〈ハロー・グッドバイ〉を楽しんでいただけたらと思います。
シリーズ始まって十七年が過ぎ、物語の中ではほぼ毎年読者の皆さんと同じようにひとつずつ年を重ねている〈堀田家〉ですが、番外編を挟むので、実際には皆さんよりも少し前の世界を生きていることになっています。従って、まだ堀田家にはコロナ禍が訪れてはいません。
この文章を書いているのは二〇二二年の三月半ばです。
猛威を振るった新型コロナウィルスは、ワクチンも浸透し飲み薬も出始め、どうやら世界中でウィズコロナという形で収束に向かい始めているように思えます。そんなときに、またしても戦争という悲劇が世界中を震撼させています。悲劇は確かに人間の営みの一側面ですが、戦争だけは決して行なっては、許してはいけません。一刻も早く終結してくれることを願うばかりです。
〈東京バンドワゴン〉は、〈ホームドラマ〉です。家があり、家族がいて、そして共に生きる仲間や普通の人がいてこそ成り立つ日常のドラマです。
堀田家とそこに集う人たちのこの物語が、皆さんの気持ちをほんの一時でも明るく楽しいものにできれば、そして未来への希望に微かでも灯を灯すことができたなら嬉しいと思いながらいつも書いています。
今回も堀田家をよろしくお願いします。